店長さんと、少年少女とギルド長。
引き続き翔太視点。
「ひ・・・っでぇなぁ、ちょっとしたお茶目だろぉ」
「セクハラはお茶目に入らねぇよ」
後ろに流してるんだか、立ててるんだか判らないモサモサした金褐色の髪と、日に焼けた大きな手の下から生理的な涙で濡れた金色に近い茶色の垂れ目が現れた。
久松さんよりデカい、推定身長180代のおっさんは全体的にがっしりとした体格をしている。
ってーか・・・
「ね、ね、翔太翔太!あのオッサン声村長じゃね?あ、えーとひろしじゃね?」
春日部の野原さん家の!と妙にテンションが上がった石川に全力で同意する。
これはテンション上がらざるを得ないだろ!!
実際TVだったりゲームで聞き覚えのあるええ声が生で聞けたらテンション上がるわ!
「ヒロシ?」
「あー・・・そう言えば」
似てるかもな、と苦笑した久松さんが甘い匂いのするミルクティーを俺と石川に渡して、俺の横に腰を下ろした。
久松さんのカップに入ってるのはストレートティーだった。
って事は、さっきは気を使って俺達と同じものにしてくれてたんだろう。
知らなかったとは言え、気を使ってくれてたのに手を付けなかったのは悪いことしたな、とおっさんの声で上がったテンションが落ち着いた。
「ちょーっとぉ?なんでノゾムちゃんそっちに座んのよ、狭いでしょうにー・・・って言うかオッサンの分は?」
さっきまで久松さんが座っていたソファーに腰を下ろしたオッサンが、自分の横の空間をぽんぽん叩いてから視線を紅茶に向けた。
「ケツやら足やら触られると判ってて横に座るほど、尊敬も信頼もしてないしお人好しでもないんだ。それより名乗れ」
横に居ても判るほど“にっこり”作り笑いを浮かべた久松さんは、そう言い切ると自分の分の紅茶を啜った。
っつーか、オッサンの分の紅茶については無視か。
「ま、いーか。俺はギルベルト。ギルベルト・マスタング」
「・・・大佐ですか?もしくは雨の日無のうごっ!!」
「ショーです。こっちの馬鹿は梓」
馬鹿なこと言い初めた石川の顔面に裏拳を叩き込んで名乗れば、一瞬キョトンとしたオッサンはソファーを叩いて盛大に笑い出した。
「いーねぇー!さっきから大佐だの村長だの!何でそー思ったか判んねーけど、そう言う聞かれ方したのは初めてだわ!
でも、えーっと?アズサちゃんだっけか、残念ながら俺は村長でも大佐でもないのよ。
国立ギルド“風見鶏”長、乱獅子のギルって言ゃあ俺の事だ!ってなぁ」
げらげら笑ったおっさんは、オレの名前縮めたらピッタリの職業だと思わなぁーい?なんて、にんまり笑った。
なるほど、オッサンの名前と苗字の頭を取ってくっ付ければ“ギルマス”だ。
確かにピッタリだな。
「んーで?アズサちゃん達が、オッサンが呼ばれるちゃうほど強いわけぇ?
今まで二人のお目付け役ノゾムちゃんだけだったんでしょ?」
サラッと俺の存在を省略して石川に鼻の下が伸びた笑みを向けたオッサンは、紛れもなくただのセクハラ親父だ。
それより、ちょっと気になったのは・・・。
「その言い方だと久松さん弱いっぽく聞こえるんですけど」
「ああ、弱いと思うぞ?私は」
「「え?」」
「え?」
一般人だし。と言い切った久松さんに視線を向けて、あれ?と石川と顔を見合わせた。
だって、王道主人公だろ?
だったら、チートは?
「臨さんってギルドの、職員なんですよね?」
「玉座のあるとこで言ったんだけど、聞こえてなかったか。職員は職員だけど、食堂の方の職員。通称“店長”で、正確には調理師だよ」
口を挟んだオッサンに向けて腕を振った久松さんが失笑を漏らす。
いや、ナイフ投げて失笑ってそれ一般人じゃないと思うんだけど。
「まーったく、あぶないでしょーが」
「あー・・・の?本当にひさ・・・臨さん一般人なんすか?」
「ちょっとダーツが得意なだけで」
オッサン目掛けて結構な速さで飛ばされた投擲ナイフは、的代わりだったオッサンの手で弾かれる。
カシャンと金属音を立てて床に落ちたナイフを指差して、顔が引き攣るのを押さえながら久松さんに尋ねれば。
シレっとそんな答えが返ってきた。
ダーツとナイフ投げは全くの別物だと思うのは俺だけデスカ?
素手で結構な速度のナイフ弾いたおっさんは流石だけど、そのナイフを放った久松さんは何なんだろう。
一般人とか弱いとか言ってるけど、実は凄い人なんじゃねーの?
本人気付いて無いだけで実はチートとか・・・
そう言えば、久松さんあの魔王顔の騎士にかなりの殺気投げられてても普通にしてたしな・・・。
俺だったらちょっと動けないようなやつだったんだけど、それ向けられながら気負わないで歩いてたって凄い。
本人もおっさんも一般人って言ってるけど、実は久松さんの実力って計り知れないのかも・・・。
そんな事を頭の中で考えながら啜ったミルクティーは甘かった。
甘かったけど、嫌な甘さじゃなくてほっとする様な。
同郷だって知ったからでもなく、女の人だって判ったからでも無くてさ・・・
久松さんと顔を合わせてから、心のどこかで感じた安心感が滲む様な味だった。
我ながら臭い事言ったけど、でも。
何時もどっかしら緊張してたショー・クウァッシュ・ラケルとしてじゃなくて、ただの俺に、坂上翔太に戻っても良いんじゃ無いかと思うようなあったかい感じがした。




