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風見鶏の店長さん。  作者: 武蔵(タケクラ)
国の歴史と、風見鶏。
3/43

『風見鶏』の、店長さん。2


「クレア、ポークソテーで良いか?」

「ノゾムさんのご飯ならもー何でも良いですよぅ。っとにもー! “御一行”が訓練所に移転魔法で飛んできちゃったせいでご飯食べそこねてー」


 お腹すいたー。とカウンターに突っ伏して嘆く竜人のクレアが漏らした愚痴に、店内の傭兵達は「街中じゃなくて良かった」とざわめいた。


「西の人も良く飽きないって言うかー」

「マジで暇なんすかね」


 アリソンとシャムの呆れたような物言いに、皿洗いをしながらロバートが笑う。

元勇者や御一行であった傭兵や一般客からも申し訳なさそうな笑みであったり、失笑が漏れた。


「ま、ちょっと前から勇者制度出来たとかだし。それが仕事なんじゃねーの?」

「そんな、他国に悪戯する職業なんて廃れてしまえば良いのに・・・」


 あうあうと呻くクレアは、装束を除けば本当に騎士らしくない。

これでも一応、近衛隊の小隊長であり、地位は少将であったりするから世の中解らない。

 更に補足すると、彼女は五大貴族と称されるゼノ帝国建国当初から皇家に忠誠を誓う家系の一つである、パナシェ家の長女で二子ある。


「てか、勇者って職業なのか」

「そだよー。ノゾムちゃん知らなかったんだー?」


 クレアにソテーとパンを出した臨は、首を傾げたアリソンに頷いてみせる。

サラダとスープの準備をする臨はそれで? と誰にとも無しに説明を求めた。


「確か100年前か、そこらに出来た制度じゃなかったっけ?」

「そんな感じっすかね?上位の魔族倒して帰還したら英雄認定とかそんなん」

「そうですねぇ大体合ってますよ。正確には360年程度前ですね。

出自や身分を問わずにつける職だそうで、人気職なんでしょうねー・・・

うちの陛下を討ち取った暁には生涯を国で保証され、歴史に名が残るんだそうですからなおのこと」


飲み物を取りにカウンターを立ったクレアが、ロバートとシャムの曖昧な言葉を訂正した。


「クレア様詳しっすねー」

「ついさっきまで尋問してましたからねぇ」

「てーかさぁ、ゆーしゃせーど出来たのってちょっと前じゃーん。

あたしロブさんとシャムが言ってた位最近だと思ったー」


 三世紀がちょっと前で一世紀が最近って。と思うが、臨は口は挟まなかった。

知識面で歴史的分野の話ならば、魔族は強い。

何せ外見年齢×10が大体の実年齢だそうだから、彼らに歴史分野で人間が太刀打ち出切る訳が無い。

因みに、平均寿命は血統によって異なるが大体1000歳程度らしい。


「御馳走様でしたー! ・・・あのー、その。ですねぇ」

「ジムなら事務所で商談中」


 口元を拭ってそわそわし出したクレアの先手を取って、臨が告げれば「そーですかぁー・・・」と目に見えて落胆したクレアにアリソンがニヤリと笑う。


「クレアちゃんてば、おっちゃんラブなの判りやすーい」

「ちょっ!アリソンさん!その呼び方止めて下さいって、いつも言ってるじゃないですかぁ!」


 からかうアリソンに向けて、真っ赤になりながら反論するクレアが止めて欲しいのは、ちゃん付けでは無く、ジムに対する“おっちゃん”呼びの方だそうだ。

 外見年齢に多少の差はあれど、ジムとクレアは同い年だ。

まだ子供の頃、学生時代にクラスメイトだったそうで、クレアの片思いは其処から始まっている。


「ジムは気にして無いんスけどねー」

「てか、いー加減ジムも逆玉乗っちまえば良いのに・・・」


 きゃあきゃあと姦しい二人を尻目に、ロバートとシャムが溜め息を吐いた。

そう言えばさぁと言わんばかりにシャムがロバートにフォークの先を向ける。


「クレア様のアタック、後何年続くんスかね。俺、50年経った時点でカウント止めたんスけど」

「あ、勝った。俺、80」

「まあ、カウント止めた時点でどんぐりの背比べだけどな」

「「・・・・・・」」


 筋金入りだな。と思いつつ、臨が何の気なしに放った言葉に、どうでも良い勝負を始めた男二人は黙り込んだ。


 一方、ギルド側では。

呆然と食堂のある方へ視線を向ける依頼人に対して、ジムは困ったように頭を下げていた。


「賑やか、ですね・・・」

「・・・喧しくて申し訳ない」


 実の所、ガールズトークに突入したアリソンとクレアの会話も、先ほどまでの臨の怒鳴り声も、全てギルド側へ筒抜けだ。

ジムを指名したこの依頼人以外は、『ああ、またか』と馴れた様子で気にする素振りも見せていなかった。

 止め処ないガールズトークを臨が遮り、クレアが慌てて店を出た後。

漸く商談を纏め、どことなく疲れた様子で食堂へ帰って来たジムは、自分で閉めたばかりのギルド側へ続くドアを指差す。


「お前ら、カウンターの会話筒抜けだからな」

「「知ってる」」


 声を揃えた臨以下三人に、ジムは深い溜め息を吐く。

風見鶏に出入りする傭兵やスタッフならば誰もが“知っている”事を言い聞かせ、注意を促した所で、面白がってわざとやっているアリソン達は開き直って笑顔を返してくる。

 つまり、カウンターの会話が筒抜けになると言う事実を知らないのは、この場に居ないクレアのみだった。




 傭兵ギルド『風見鶏』内の軽食屋は大概、喧しい。

一年程前から、更に賑やかになり、これが日常になった。


この先、この日常が更に喧しくなることを、まだ誰も知らなかった。



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