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風見鶏の店長さん。  作者: 武蔵(タケクラ)
店長さんと、城と勇者と軍人と?
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店長さんの、帰路。・・・と?


普通、一般人が立ち入る事の出来ない皇族の居住区を臨一人で歩く訳にも行かない為、毎回クレアが一般人の立ち入りが可能な場所まで臨に付き添う。


近衛兵が一般人を引き連れて歩くと言うのも、なかなか可笑しな絵面だ。

だが、臨が何者か知って居る者の方が何かと都合が良い為クレアが送る役目に抜擢されたのだ。

馴れた今では他の者でも問題ないのだが、一年前からの恒例だ。


「ノゾムさんには申し訳無いんですけど、今日は“陽龍”の辺りまでで良いですか?」


歩みを進めながら、本当に申し訳無さそうに言い出したクレアに臨は頷いた。


クレアが言った“陽龍”とは、城内のエリアを区切る巨大な扉の一つを示す言葉だ。

一般兵士や冒険者達が出入り出来る施設がある(言い換えれば、一般人が立ち入る事が出来る)エリアと、各役職の執務室や私室、客室などがあるエリアを分ける扉を“月龍”

執務室エリアと皇族の居住区を分ける扉を“陽龍”と呼ぶ。


普段は、月龍まで見送るクレアも今日は忙しい様で、宣言通り陽龍を過ぎて少しした辺りで臨と別れた。


「(近衛兵が総出で準備に掛かるって事は、他国からの来客か?)」


と、ぼんやり考えながら、臨は特に見咎められる事も無く人が行き交う廊下を歩き、一人で月龍を抜け、玄関ホールを抜けると城を後にした。


臨が城門を潜ると、空は茜色に染まり始めていた。


城へ向かう休日の帰宅時間は、大体この時間だ。

休日の夕食時に集まって来る、お決まりの面子を頭に描いた臨は、「さて今日は何にしようか」とレシピと買い足す食材を考えながら城門前の噴水広場を歩く。


ふと聞こえたガラガラと耳慣れない音に意識を向けた瞬間、

臨の目の前を、ゆっくりと一台の馬車が通り過ぎて行った。


魔防壁(初下級の魔法ならば防げる物)の魔方陣と、ゼノの国章が装飾の変わりに描かれている質素な馬車だ。

辻馬車や荷馬車の様に幌の付いた荷台だけの物ではなく、屋根も壁もしっかりとしたドアの付いた物だが・・・この国の住人になって約二年。

片手で足りるほどしか、城に乗り付ける馬車を見たことがない臨だったが、これほど質素な馬車は見たことが無かった。


「・・・あれが総出で迎えるほどの、客?」



帝都ドラグニルにおいて、城に馬車で乗り付けられる者は、

他国の客か、ゼノ帝国内の領主だけだ。

緊急時はその限りではないが、平時の今、これは適用されない。


それに“あれ”はそう言った類の客が乗る馬車じゃない気がした。

言うなれば・・・


「護送車だな」


ゼノの国章が入っている時点で他国の使者である可能性は0、領主が乗るにしてはかなり貧相。

と言うことは必然的にそう言った用途を持った馬車なのだと思う。

そう呟いた臨は、ギィギィと空で鳴く鳥の声にハッとした。


「ま、関係ないか・・・それより、買い物行かないと」


知らず知らず足を止めていた臨は、城に背を向けて再び歩き出した。



――――――――――

―――――――


城門に向かって行く馬車の中では、五人の男女が大小の差はあれど顔に疲労を滲ませていた。


木製の車輪に薄く延ばした鉄を巻きつけているおんぼろ馬車は、小石に乗り上げた衝撃すら強く車内に伝えるのだ。

踏み固めただけの道を数日掛けて旅してきたところ、最後の最後。

帝都ドラグニルに入ってからと言う物、敷き詰められた石畳で絶えず揺られて彼らはすっかり疲れていた。


「やーっと着いたか。つーか、馬車めんどうだな。無駄に疲れるし」

「・・・・・・着いた?」

「こーら!これから陛下の御前に出るんですからちゃんとして下さいよ!」


まだ停車前だというのに大きく伸びをして声を上げた薄い藤色に輝く長髪を背中に流す男と、緑色の髪をイガグリの様に立てた青年を嗜めるのは、ふわふわした桃色の髪を首の後ろで一括りにした少女だ。

まだ幼い、高い声でぷりぷりと怒って見せる少女に迫力は全く無い。


「あ、あのー・・・」

「はい、なんですか?」


すみません。と青年と男の間で小さくなっていた黒髪の少年がこれまた小さく手を上げ、

ぎっちぎちでむさ苦しい席の向かいに座る少女は首をこてんと傾げて見せた。


「俺達も、これから魔王・・・陛下に会う、んでしょうか?」

「んー、それはどうでしょう。先に閣下にお目通り願えれば会うこともないでしょうけど・・・ま、臨機応変で!」


“文字通り”花を飛ばして、にぱっと笑う少女の言葉に少年の頬が引き攣った。

その拍子に、少年が身に着けている金属製の手枷と首輪が、重い金属音を僅かにたてて揺れる。


「大佐、頼むからクソ狭い馬車の中で花飛ばすなよ・・・窒息する」

「あ、ごめんなさい。“つい”やっちゃいました」


何も無い空間から花をぽぽぽんと出現させた少女を“大佐”と呼んだ長髪の男は、面倒くさそうに花を払って溜め息を吐いた。


「さて、それでは!みなさん準備はよろしいですかー?」


ガタンと一際大きく揺れて馬車が止まり、迎えの兵士が寄って来る気配を感じた少女――大佐は、ひらひらした短いスカートから伸びる太ももを一つ叩き、床に積もっていた花を消す。

そして、彼女は疲れを感じさせない明るい声をあげて無邪気な笑みを顔に貼り付けた。


「大尉と中尉は私の顔に泥塗るような行動はしないようにお願いしますですよ!

それから、ショー君とアズサちゃんは問題起こそうとか、逃げ出そうとか考えないように!

じゃないと・・・」


蒼白な顔色で隣に座っていた茶髪の少女に、きゅっと抱きついた大佐は、

無邪気な少女の顔に似合わない、狂喜を孕んだ笑みを浮かべ、少女の首にハメられた首輪を撫でた。


「お二人とも、頭と体がサヨナラしちゃうかも知れませんよ?」


ふふふと声を漏らして笑った大佐は、抱きついていた少女を突然大切な人形に飽きて投げる子供の様に突き離すとドアの開けられた馬車を降りた。


「お出迎え感謝します!ブリューゲン軍大佐のオリヴィア・アイリスです!勇者一行と思われる者を連行いたしました。

尽きましては、皇帝陛下、並びに宰相閣下にこの者たちの判断、処遇を願いたく、馳せ参上致しました!」


小さな花を撒き散らしながらにこりと笑み、元気良く言い切ったオリビアは、内心で小さく溜め息を吐いた。


「(・・・殺しちゃえば早いのに、めんどくさ)」



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