店長さんと、“勇者制度”講座3
顔出し、勉強会、定期報告。
名称は何だって良いが、月末の午後に開かれるアイザック、ジャスミン、コリーと臨、四人のお茶会(気紛れにヴァンも現れる事もあるが本日は自業自得の欠席)は、コリーの私室で行われる。
ティーセットや焼き菓子を持ち込んだメイドは、一杯目の茶だけ振る舞うと退室を命じられ、その先は飲みたかったら自分で、と言うのが暗黙の了解だ。
「勇者学校?また随分懐かしい話が出てきたな」
苦笑したコリーがそうだな、とカップを置く。
相変わらずの執事服だが、給仕はメイド任せで手伝う素振りすら見せなかった。
どうして動きやすい格好で執事服なんだ、と臨は常々思うのだがどうにも訊ねる切欠が無い。
動き易さで言えば近衛の制服でも良いはずだ。
「簡単な話はヴァンから聞いただろうけど、勇者学校を出て勇者組合の試験に合格すれば誰でも勇者に成れるんだ・・・ってのは理解出来てる?」
「ああ、それはヴァンから聞いた」
学校の詳細はコリーに丸投げしてたけど。
と、臨が言えば、街中に居そうな軽装のアイザックが食い付いた。
アイザックが皇帝らしい服を着ている所を、臨は一年前の面通し以来見たことが無いが、これは余談だ。
「勇者学校については俺も詳しく聞いた事がないから、コリー頼むよ」
「って、言われてもなぁ・・・結構普通だから、期待するだけ損だって」
紅茶を飲み干したコリーは、二杯目を注ぎながら、「十年前だからなぁ」と唸るように話だした。
「学校は基本的に二年制。
入学試験は簡単な実戦と、魔法の資質があるかの検査、後は基本のテスト?だったかな、文字とか歴史の。
入学出来るのは年に10人位で、入学出来たら勇者の心得だとか、連携プレーの基礎だとか、初期魔法何かを学んで、卒業試験に合格出来れば卒業、出来なかったらまた苦手分野の学び直しでー・・・」
「ちょ、コリー待った!一気に言われても解らないからゆっくり!」
立て板に水の勢いで語るコリーに、国政に役立てるのか単なる趣味かは判らないがメモを取ろうとしていたアイザックが待ったをかけた。
一応理解出来て居たが、質問を挟む余地が無いほどの勢いでコリーが話して居たので、アイザックの要望は少々有り難い。
「あ?そう、まあ良いや。
学校は基本的に二年制で、入学する為には試験がある。此処までは大丈夫?」
臨とアイザックを見て首を傾げたコリーに、二人が首肯で理解を示すとジャスミンが口を挟んだ。
「入学試験は、基本筆記と戦闘実践、魔法資質の有無を測るテストよね?」
「そ、まあこの辺りは、受けた事があれば誰でも知ってるし、記念受験する人も多いから結構常識だな」
飽くまでも西の常識だから。
と、臨に向けて付け加えたコリーは、紅茶で喉を潤してから続ける。
「授業は、実技と座学だ。まあ、子供が通う学校と変わりないかな。
内容は勇者の心得だったり、様々な職種との連携プレーの取り方、下級魔法が主で、他にも諸々」
「コリー、諸々で済まさないでくれない?」
ジャスミンに半眼を向けられたコリーは、えー?と、笑って流そうとしたが、少しして溜め息を吐いた。
「色んな武器を使える様にするための、戦闘訓練。後は座学。
俺みたいに田舎出身だと、簡単な読み書きと大雑把な歴史しか知らないから、その辺を掘り下げた授業だよ・・・もう、あれは睡魔との戦いだったね」
自嘲を浮かべたコリーはあらぬ方向に視線を向けて、懐かしいなー。と、呟いた。
「コリー、戻って来い。
基本二年制だったな、さっき言ってたが、卒業試験に落ちた者は留年で有ってるか?」
「んー、まあそうだな。ノゾムの言うとおり落第したらまた一年、勉強漬け」
「歴史の教授の喋り口が一本調子で、それがまた眠くて・・・」と、脱線しかけたコリーを、何とか現実に戻して問うと、
手掴みで齧っていたマフィンを飲み込んだアイザックが首を捻る。
「試験だらけだな、それで?卒業試験は何をするんだ?」
「筆記試験と魔法実技、後は学校側が用意したダンジョン攻略だ」
要するに肝試しの様なもの、だそうだ。
モンスターの放たれた塔の中央部にあるアイテムを持って、出口から出る。
至る所に教師陣が仕掛けたトラップもあるらしい。
「7年生に聞いたけど、毎年難易度が変わるらしいよ?まあ、俺はストレートで卒業したから一度しか体験してないけど」
「あー、はいはい。自慢話有難う」
ニヤリと笑ったコリーに向けて、嫌そうに手を振ったジャスミンはテーブルに肘を突いて、それで?と先を促す。
「学校の事はもう良いわ。ついでだから勇者試験の話もしたらどうかしら?」
自慢話をおざなりに流されたが、特に気にした様子もなく、コリーは三杯目の紅茶をカップに注ぎながら、そうだね。と同意した。
「勇者検定試験は卒業試験と変わらないな、ああ、面接が追加されるか」
「コリーは猫被るの得意だから、そう苦でもなかっただろ」
にたりと笑ったアイザックの言葉に、まあね。とコリーも笑う。
そんな男性陣にすっかり呆れて紅茶を啜ったジャスミンは、どこか納得が行かない表情を浮かべて居る臨に気付き首を傾げた。
「あら、ノゾムどうかしたの?コリーの猫被りが意外って、訳でも無いでしょ?」
そんな今更。と言うジャスミンの問いかけで、臨の様子に気付いた男性陣もジャスミン同様に首を傾げる。
「なんだ?面接はノゾムの世界でもあったって前に言ってたよな?」
「ああ、面接が変だとかじゃ無くて・・・知り合いの元勇者に、よく面接通ったなと思う奴が居るもんだから」
ドラグニル夫妻が「それってどんな人?」と、首を傾げるが、コリーだけは貼り付けたような笑みを浮かべる。
近年ゼノを訪れた勇者一行と、ほぼ全て面識があるコリーは思い当たる人物が居るのだろう。
心情を笑みで隠したコリーは、臨の表情を伺うように僅かに視線を鋭くさせた。
「なあ、ノゾムそれって誰?」
「・・・ダグラスだけど?赤毛で馬鹿正直な」
ああ。と納得したコリーは、僅かだが放っていた剣呑な空気を払拭し、次の瞬間声を上げて笑い出した。
唐突に笑い出したコリーに、臨は目を丸くして、除け者扱いになってしまった夫妻は、何事だとコリーと臨を見比べる。
「あ、ああ!ごめんごめん。
ノゾムは知ってるだろうけど、ダグラスってのは、考える前に口に出す奴なんだよ。
つまり面接には向かないタイプってこと、まあ、ノゾムの言う通り馬鹿正直な奴だ」
そう悪戯めいた笑顔で言い切ったコリーに、臨は苦笑した。
どうやらダグラスに対する認識は馬鹿正直で間違ってないらしい。
「取り敢えず勇者に着いてはこんな所だけど、何か質問は?無かったら今日は此処までにしようか」
ヴァンが抜け出してくる前に。とにんまり笑ったコリーの言葉に笑ったジャスミンと臨が頷き、お茶会はお開きとなった。
書類仕事が残って居るアイザックをコリーが引き摺るように連れ帰り、
ジャスミンは来客の準備があると残念そうに引き上げて行く。




