店長さんと、“勇者制度”講座2
米噛みを抑えた臨が何とも言えない感情を必死で押さえ込んでいると、ヴァンはペン立てに浸けペンを戻してニヤリと笑う。
「それじゃ、ついでだから“同行者”も教えようか?
まあ、要するに僕らだよね、“同行者”ってか“腰巾着”?」
ケタケタ笑いながら両手を軽く開いて自分を示したヴァンは、椅子から立ち上がると部屋に備え付けられた黒板の前に立った。
カツカツと白炭を滑らせたヴァンは、横にはけると文字を書きながら説明する。
「えーと、職業はぶっちゃけ何でも良いんだよね。まあ、オーソドックスなのはこの辺?」
東西の共通語である、五十音に記号を当てはめた様な文字の羅列はヤケに癖が強い。
文字の形に癖があるのではなく、ヴァンが悪筆なのだ。
余談だが臨は、マギソーに来て二週間でジャスミンに叩き込まれた。
それは凄まじいスパルタだったそうだ。
黒板の文字に話を戻そう。
箇条書きで書かれている役柄は四つで、職業は幾つか書かれている。
攻撃魔法・魔術師、
補助魔法・神官、または治癒士
近衛補助・剣士、戦士、兵士
中遠攻撃・武術家、射手
「勇者ってさ、基本は元格闘家か元戦士なんだけど、下位魔法も使えないと駄目らしいんだよね」
板書を終えたヴァンは上2つを白炭で叩く。
「魔法は使えなきゃならないけど、中位や上位は使えないから僕らで補う訳。後の2つは連携取りやすいとかそんな理由かな」
サラッと説明をしたヴァンは、「それで」と、書き加えた文字を見せる。
「次にベターなのはこの辺、足りない物を補うって辺りは僕らや教会組と一緒だね」
接近攻撃・格闘家、拳闘士
近中補助・暗躍者、賊人
トン、と2つの役割を示したヴァンは、その下の職業を一瞥してから臨に笑顔を向けた。
「じゃ、問題。ちょー少数だけど皆無じゃない残りのメンバーが一緒に来る理由はなーんだ」
「理由?」
・学者
・騎士
・踊り子、曲芸士
「理由・・・学者と騎士は名誉?」
「良くできました。因みに踊り子は勝手に着いて来たり、馬鹿が恋人連れて来たりだね」
その手の奴ら(旅芸人)は潜りが多いよ。
そう言って肩をすくめたヴァンの言葉に臨は苦笑した。
「要するに、旅芸人とか学者先生は守って貰う前提で着いてくるから」
「腰巾着か」
「ま、そう言う事」
別名、足手纏いだ。
愛や研究に命を懸けると言えば聞こえは良いだろうが、
真相は、命懸けの恋をしていると言う自分に浸るナルシストや、一発逆転を掛けた落ち目の学者なのだろう。
「腰巾着についてはこの辺かな、それじゃ今度はパーティーの組み方とか、まあその辺?」
黒板消し代わりの布で文字を消したヴァンは、白炭で黒板に文字を書き連ねる。
・ダルメシア
・レトリーブ
・ドーベル
・セッター
・バーナード
・レートデン
「犬?」
「犬?」
黒板に書かれた文字を読み、思わず呟いた臨にヴァンが首を傾げる。
「まあ、いいや。これ、西で主な大国ね」
「あ、ああ・・・国の名前か」
犬種じゃなかったのか、と呟く臨を無視してヴァンは更に文字を書く。
「僕はダルメシアの出身、コリーとリオネッタはレトリーブ、ジャスミンはドーベル。出身地はバラバラだけど、どうやってチームになったかってのをこれから説明するね」
免許制度やら何やらあるからてっきり同郷だと思って居たが、違うようだ。
おや、と首を傾げた臨をに背を向けたまま、ヴァンは説明を始めた。
「勇者学校ってのは、この六国の王都にしかないんだ。そんで、勇者制度ってのを取り仕切ってる勇者委員会の事務所が、各学校の中にある」
因みに、一年毎に本部が変わる。と、付け足したヴァンが振り返った。
「制度が出来て最初の内は、委員会が適当に実力別でチームを決めてたらしいんだけど。やっぱ連携取り辛いとか、性格合わないとかで苦情が来たらしくて」
だろうな、と思った臨は頷いた。
いくら目標が同じとは言え、そんな面子で動くのは無理がある。
学校や職場と違って、旅をするとも成れば四六時中一緒なのだから無理も無い。
「じゃあ、って事で年に一度本部のある国まで行ってお見合い・・・じゃなかった、仲間捜しの親睦パーティーが開催されてる訳」
「・・・お見合いって」
「まあ、似たようなもんじゃん? そこはスルーしてよ。で、気のあった奴らでチーム組んでー。勇者の出身国で最低一年からの連携訓練だとかしてー、出発みたいな感じかなー。」
板書を見れば、“親睦パーティー”から矢印が二本伸びている。
一方の先は“仲間ゲット”で、もう一方は“残念でした”だ。
「一回で全員見付かる訳ないから二、三回参加するのが普通みたいだよ」
「質問、勇者同士がチームを組む事は?」
「あるねー。そう言う事もあるし、実際出来るよ。
まあ連携訓練開始の時に揉めて解散するのが殆どだけど」
恐らくはどちらの国に戻るか、で揉めるのだろう。
と、予想した臨の前でヴァンが笑う。
「ま、勇者なんてのはお国の顔みたいなもんだからねぇ、上手いこと何とかなったとしても両国が黙っちゃ居ないだろうね」
「何か・・・王族の結婚問題みたいだな」
「あ、それ良い例えかも」
カラカラと笑うヴァンが、ふと笑うのを止めて首を傾げる。
「そう言えばノゾム、時間大丈夫?」
「は?」
さっきお昼の鐘が鳴ったけど。と、あっさり言うヴァンに臨は青くなる。
午後からは城で“経過報告”と言う名目で城組に顔を見せなければならない。
まあ、結局のところはヴァンと喋って居たような世界事情の摺り合わせや、一般常識講座をするだけだ。
テスト期間の学生よろしく、お茶をしながら勉強する。
それだけなら別に青くなる理由もないが、問題はその場に講師として出向く面子だ。
アイザックは兎も角、コリーとジャスミンは怖い。
遅れようものならコリーは冗談半分でスパルタ教師と化すし、元々スパルタ気味のジャスミンは鬼と化す。
椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、ドアに向かった臨に、ヴァンがニヤっと笑う。
「間違っても、遅刻の原因、僕の所為にしないでよー?」
「そこは“しても良い”って言えよ!!」
悲鳴の様な怒鳴り声を返してから走り去った臨に、ヴァンは声を上げて笑った。
少ししてから、ふう。と息を吐いて窓を開けると入り口を経由して、建物を回り込んで来る臨を待つ。
凄い速さで近付いて来る人影を見つけると、ヴァンは片手を口に添え、少し声を張り上げた。
「移転魔法で送ってあげようかー?」
「っ! ・・・・・・先に言え!!」
ザッと砂利を巻き上げてつんのめる様に立ち止まった臨が怒鳴って、ヴァンは再び声を上げて笑った。




