店長さんの、身の振り方。
ならば、住居は城もしくは研究所で、職は城内の食堂で働くか店を出す。
と言う案を、アイザックは提示したが。
これは臨本人が全て却下した。
まず、住居。
一般人の臨にとって、城は気が休まらないだろう。
更に、こちらの一般常識がままならない状態で、
ロイヤルな方々の相手なんざ考えただけで胃が痛くなる。
それに、ポっと出の一般人が城仕えなんてありえない。
他の者の反応も判らない上に、出会ってから数時間で把握した限りのアイザックやジャスミンの性格を鑑みると、料理人やメイドが寝泊りする棟であっても平気でやってくるだろう。
それが他の魔族の目にどう映るか・・・
まあ、好い気はされないに違いない。
魔法研究所については、突然ヴァンに呼び出される可能性があるので却下だ。
しかも結構下らない理由で唐突に呼び出される。
と、言う事は。
仕事が終わって疲れきった所でそんな事された日には、太い何かがブチンと切れるだろう。
職に付いても文句があった。
まず、城内。
この時点で、無用な混乱を防ぐために異世界人である事は極秘事項とされ、箝口令が布かれている。
情報保護の点で言えば、城内の食堂は確かに安全だろうが、他の情報面で閉鎖的だ。
加えて、居住面と同じ精神面での心配もある。
更に言えば、臨は自分の腕にそこまで自信がある訳じゃない。
次に出店だが。
ただ料理を提供するだけならばなんの問題ないだろうが、
個人で店を持つとなれば、必ず調理以外の技術が必要になってくる。
経理、接客、発注などなど。
経理面は良いとしても、問題は接客だ。
臨は接客経験が浅い。
更に口は悪いし、手も足も直ぐに出るような人間だ。
冒険者が多いこの世界では、口調は多少多目に見られそうだが、
口調より問題なのは、会話の中身。
フォローする者が居なければ、いつボロが出るか知れたもんじゃない。
常識的に重なる部分は多いが、食い違う部分もあるような状況での出店は、流石に無理がある。
そんな臨の言い分を聞き、「ならばどうするか」と思案したアイザックは、
以前から改善要望が出ていた、国営ギルドの食堂事情を思い出した。
利点もある。
一つは、国営故に、多少融通が利く事。
二つは、様々な事情を持つ傭兵が集まる為、無用な詮索を避けられる。
職を通して常識を身に付ければ、暮らしも何とかなるだろう。
そんな、やや甘い見通しもありつつ。
アイザックは傭兵ギルド“風見鶏”の話を、臨に振った。
ギルド外の者も利用出来る為、魔法使い達も文句は無いようだ。
月に一度、検診の名目で城と研究所に顔を出す条件と共に、
城下で住居を持つ事を許可する事も提言すれば、臨はあっさり頷いた。
* * *
そして、一年前の春。
日本人、久松臨はギルド風見鶏の食堂店長に就任した。




