皇帝夫妻と、元・勇者様御一行。と、店長さん。
「方法じゃなくて、この世界から消えた後が問題なんだ。
帰った所で居場所が・・・、じゃないな、体が無いと思うんだ。
率直に言うと、事故で多分死んだ瞬間に召喚されてマ・・・この世界に来た」
「マギソーに、ね。ノゾムさぁ、絶対マギソーって言わないよね。
恥ずかしがり屋さんか」
「恥ずかしいだろ! 安直過ぎてなんかダサい!」
ヴァンに向けて小さく吠えた臨は、咳払いを一つして気を取り直し、続ける。
「最初、この世界は死後の世だと思ったんだが・・・
採血は痛いわ、ヴァンはウザいわ、腹は減るわ、貧血にはなるわで、
別の世界だと受け入れた訳だ」
「あれ、今余計なの入ってなかった?」
「「気の所為だ」」
コリーと臨のユニゾンに、ヴァンが頬を引き攣らせたが全員が無視した。
「じゃあ帰ったらどうなるか?
それを考えた結論が、さっき言った“帰る体が無い”ってやつだ」
「でも今は有るわよね?」
ほっぺたプニプニだったもの。と首を傾げたジャスミンの言葉に、ヴァンが声を上げた。
「あ、それ僕の仮説で良ければ説明できるよ。
多分、今ノゾムは精霊状態なんじゃないかな?
精霊ってそもそも元素が意志を持った状態な訳だから、ノゾムは逆だけど異世界から来たと言う考慮も含め可能性は高いと思うんだ。
で、其処に強化魔法が掛かったもんだから実体構築したって言うか・・・」
「うん、その仮説で良いと思う」
優しい笑みを浮かべたコリーがヴァンの肩を叩いた。
「お前以外誰も判んねぇから、とりあえず後で報告書にまとめてくれ」
マジで? と顔を上げたヴァンに、その場の全員が同時に頷いた。
「ああ、それとヴァン。さっきノゾムが採血と言って居たけど、詳しいデータが出たら此方に報告してくれ」
「そうだな、データ如何でノゾムの行動範囲が変わるだろうし」
コリーの言う行動範囲とは今のまま研究所に軟禁か、それ以外か・・・辺りだろうか。
と辺りを付けた臨は意味も無くフライパンの中身を揺する。
「あーもー・・・、データなら纏め終わってるから明日持ってくるよ」
「っそうじゃなくてですね!
ノゾム様は郷愁の念や、思う所は無いんですか!?
考えも付きませんが、そう簡単に納得出来ることじゃないと思いますが!!」
悲しそうな顔をするクレアの感情に任せた勢いに、臨は一瞬驚いたがクレアの言葉から優しさを感じ取って笑顔を浮かべた。
「無いわけじゃ無いけど、一度“確実に死んでる記憶がある”所為か、結構諦めが付いてるんだ」
それに。と言葉を区切った臨は、ニッと笑ってジャスミンとクレアを見る。
「女ってのは、案外中身が丈夫に出来てる生き物だろ?
強い思いがあれば何処でだって生きる覚悟は出来る」
「ちょっと、ノゾムそれってどう言うこ・・・」
「あ、それちょっと判るかもしれないわね」
臨の腕を引き、聞き返そうとしたヴァンの言葉を遮るようにジャスミンがぽんと手を打って同意した。
男性陣がギョッとしたが、中でもアイザックの驚きは一入だ。
まさか自分の妻が同意するとは思わなかったのだろう。
「だって、そうでしょ? 精神的にタフじゃなきゃ貴方と結婚なんて出来なかったもの。
寿命と地位の差考えてみなさい!」
胸を張って笑顔で言い放ったジャスミンに、「そう言えば、そうだ」と男性陣が納得した。
クレアにも、何か思いあたる節があったようで、納得した顔で「出過ぎた真似を致しました」と、頭を下げた。
その後、ヴァンが放置していた臨の戸籍をコリーが作成し、
保護者・・・つまり後見人に普通じゃ考えられない地位の者が面白半分に名前を連ねた。
まあ、要するに。
後見人として確定していた魔法研究所所長の後に、宰相、后妃、皇帝の名が並んだわけだ。
ノリとしては「あ、俺も俺もー」な、寄せ書きを書くノリで。
「じゃあ、俺含め保護者三人が居る城でノゾムを預かるって事で良いかな?」
書類を部下に渡した後、内心の見えない笑顔を浮かべたコリーに「そうだな」とアイザックが頷く。
国政や技術開発に新しい風を吹かせる事が出来るだろう、異世界の知識を持つ臨を手元に置いても損はない。
そう判断しての言葉にヴァンが呆れた様子で待ったを掛けた。
「あのねぇ、預かるってノゾムは物じゃないんだから出来るわけないだろ?それに・・・“君達はどう思う?”」
『『『許可できません!!』』』
ニッと笑ったヴァンが取り出した通信石から、種族も年齢も性別も様々な声が同時に聞こえた。
どれも魔法研究所職員の声だ。
臨は異世界人だが、一般人であり、性質的にも城で暮らす事は精神的負担になりえるだろう。
ならば今のまま研究所に滞在するか、以前の生活に近い暮らしをする方が負担は少ないのではないか。
魔力がまったくの皆無であったこと以外、臨の現在の数値にこれと言った問題は無いが、この先どうなるか判らない。
精神的負担が何かしらの引き金になりえる可能性もある。
長々とそんな理論をぶち上げた魔法研究所一同であるが、
彼らの内心はただ一つだ。
“美味い飯が食えなくなるじゃないか!”
要するに、彼らはたった三日間で餌付けされていた。




