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風見鶏の店長さん。  作者: 武蔵(タケクラ)
店長さんと、異世界の日常。
16/43

店長さんの、長い休日。10


 臨が心配して居たのは、自分が紙袋を投げつけたアーサーでも、

気落ちしていた格闘家でも、泣きじゃくっていたミラでも無く・・・。


「私の晩酌・・・っ!」


 アーサーに投げつけた紙袋の中身だった。

しかも心配の度合いは、調味料よりも酒の方が大きかったらしい。


「煮付けを肴に晩酌ぅうう・・・」


 ずるずるとテーブルに伸びた臨の様子に、問題なし。と店内の視線は散った。

 夕飯はグラタンじゃなかったのか。と、問いたいところだが、

グラタンだけでは確実に足りないだろう。

他にも色々作る予定だったらしいが煮付けは、来客の腹が膨れた頃に自分用として作る算段だったのか、後日作る予定だったのかは定かでない。


「ほれ!嬢ちゃん帰るぞ」

「ういー・・・」


 焦げ跡一つない羊羹セットの袋(狐の加護でもあんのか)を持ったユジに腕を引かれて立ち上がった臨は、ザッと血の気が引くような感覚と目の前が真っ白になった事でフラつく。


「血が足りんようじゃな、わしゃ飯(報酬)なら明日でも構わん。しっかり休めよ」

「あー、あ。駄目だダグラス」

「・・・そう言えば坊主を忘れとったのぅ」


 勇者騒動ですっかり忘れて居たが、ダグラスが来る予定だ。

事故的な騒動があったとは言え、あれだけやる気を見せていたダグラスに来るなと言うのは少々可哀想だ。


「まあ、貧血位何とかなる。気合で」

「人間もそう言うもんなんかのぅ」


 一端波が引けば案外平気だ。と、笑う臨をユジは顔をしかめながらも止めはしなかった。

 アパート、赤い飛び魚に戻った臨はユジに三階の自室まで担ぎ上げられた。

恥ずかしいだの何だの言うよりも早く「倒れられたら困る」と釘を刺されてしまい、

大人しく運ばれる他なかった。


「夜には坊主を連れてまた来るがな、無理はいかんぞ?」


 魔法の炎で背中を焼かれた事により、背中部分の服が八割焼け落ちているユジは、そう言うと見事な背筋を覗かせたまま帰っていった。


 部屋に一人残された臨はゆるゆるとパンツを履き替える。

力仕事であるパン作りは、翌日以降にしよう。

自分の体調を考えて、そう決めた臨は血塗れのパンツをゴミ箱に叩き込み調理に取り掛かった。


 玉ねぎは薄切り、ほうれん草は軽く下茹でしてから一口大にカット、サーモンは塩胡椒と小麦粉を軽くまぶしてバターでソテー。

サーモンと一緒にキノコも炒める。

玉ねぎと、バターと小麦粉を焦がさないように炒ればホワイトソースだ。

ミルクか生クリームを少しづつ加えてホワイトソースをのばす。

欲を言えばミルクだけで無く、コンソメスープも加えてのばしたいところだが、一から作るとかなり時間が掛かる。


 キューブや顆粒のお手軽なコンソメはこの世界には無いのだ。

あるなら顆粒のコンソメを少し、ソースに加えると良いだろう。

キューブ状の物は砕いて入れる。

塩胡椒を加えて味を整え、トロみがついたら後は皿にぶち込んで焼くだけだ。

バターを塗った皿にほうれん草とキノコ、身をほぐしたサーモンソテーを入れて、

ホワイトソースを流しこんだらチーズをスライスしながら掛ける。

表面にパン粉をかけたら、オーブンに入れて焼きあがれば完成。

グラタンをオーブンに突っ込んだ臨は、同時進行で準備していた別の料理に取り掛かった。


 パンがない、と言うことは炭水化物が無い状況だ。

パスタを砕いてアルデンテで茹でグラタンに入れれば良かったが、グラタンは現在焼きに入っているので後の祭り。

更に言うなら、一人ならそれで足りるが、確実に四人は来るだろう状況では足りない。

大皿でグラタンを作ってはいるが、腹を空かせた大きな子供が確実に二人は来るからパスタ入りのグラタンでは足りないだろう。

 それと確定人数を四人と言ったが、ユジとダグラスは確定で、後の二人は、休日の夕食皆勤賞のロバートとシャムである。

因みに大きな子供はロバートとシャムを示す。

お馴染みの面子で言えば、

高確率で来そうなアリソンは気分屋だしアパートが違う為、意外と出席率が低い。

その点、アリソンよりもジムの方が出席率は高い。

多少遠慮する所があるので、皆勤賞とまでは行かないが。


 風見鶏とは違い、コンロが一口しかないので一品づつしか作れないが、品数は多く作る。

グラタンで使い切らなかったホワイトソースを使った野菜たっぷりのクリームパスタ、ピラフ、チキンソテーや、煮付けにする筈だった魚を使ったスープに各種フライ。

貧血だと言う事を忘れて、調理に没頭する臨の背後で様子を見に来た、お馴染みのギルドメンバーは所在なさげに立っていた。


「あ?何で居るの」

「入れって言ったの店長だろー」


 湯気のたつ皿をテーブルに置く為に振り返った臨が、見慣れた四人を目にして訊ねればロバートが皿に手を伸ばしながら答えた。


「言ったっけ」

「言ったよー、はい!ノゾムちゃん」


ロバート目掛けて臨が投げた包丁を回収したアリソンが、何事も無かったかの様に答える。

青ざめて手を引っ込めたロバートを横目に、アリソンから牛刀を受け取った臨は「まあ良いか」と、オーブンを覗いた。


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