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風見鶏の店長さん。  作者: 武蔵(タケクラ)
店長さんと、異世界の日常。
13/43

店長さんの、長い休日。7


 銀色の軌跡を追うように、赤が尾を引く。

ぽたりと、勇者だろう男が持つ剣の切っ先から赤い雫が垂れる。

切り裂かれた臨の脚とそれを包んでいたボトムには、冗談の様な速度で赤い液体が広がって行く。

 店長! ノゾムさん! と、周囲の傭兵たちが臨に対しての呼称が至るところから上がり、ぞわりと背筋を這う様な殺気ともただの怒りとも判別出来ないものが傭兵たちから立ちのぼった。

 負傷した臨の姿にか、それとも傭兵たちの殺気や怒気に対してか、小さな悲鳴を上げた神官の少女の声だけが何処か場違いだった。


「黙ってろ!!」


 ずるりと脚を引き摺りながら立ち上がった臨の一声で、傭兵たちは口を閉ざした。

 仕事中の修羅場同様に“キレた”状態の臨は、強烈な痛みも、おびただしい血が流れるのも気にせず勇者だろう男に近付く。

 飛び散るような血も、裂傷も、その痛みも。

アドレナリン大量放出中の臨はそんな“些細な事”を気にはしない。

 些細も些細だ。


“死んだあの時”に比べれば、出血量も怪我の状況も、大した事ないじゃない。


 臨が動く度に散る血液に、勇者が怯む。神官の少女に限っては今にも泣き出しそうだ。

臨の脚を裂いた剣を握るアーサーと呼ばれた勇者は徐々に青褪めていく。


「ざっけんじゃねぇぞ! あ゛あ?! テメェら周り見やがれ!! 誰が怪我人出したと思ってる! 家と店壊したのば誰だ!!」


 ガッと勇者の首を掴んだ臨の低い怒声に、

パブロフの犬よろしくギクリと動きを止めた傭兵達と、

空気が変わった事を感じ取った魔法使いは視線を向けた。

渾身の一撃を空振りした女格闘家が、たたらを踏み遅れて臨を見る。


「誰が! いつ! 徒党を組んで国を襲った!! アイザックは西に戦争を仕掛けたか?! テメェらの上が勝手な妄想膨らませてるだけじゃねぇのか!! 答えろ!」

「でも! 魔族は悪よ!! 何人もの英雄を葬り去ってる!! 大体助けて貰ってその言い種は何よ!!」


 後悔によるものか、酸欠か、青くなるアーサーの首を片手で鷲掴む臨の言葉に魔法使いの女が反論する。

それを受け、アーサーの首を掴んだまま、鋭い視線だけが女に向く。


「・・・っ!!」


 臨の視線に怯んだのは魔法使いではなく、その向こうの傭兵達だ。

先程までの怒気や殺気は何処へやら、勇者一行への警戒は未だ続けている物の殺気の類をすっかり引っ込め、傭兵たちは臨の動向を見守る事にしたらしい。


「助け? 誰が、誰を。言って置くがコレはコイツが斬ったんだ! テメェの魔法から“助けて”くれたのはコイツが斬ろうとしたユジだ!!」

「偶然そう言う結果になっただけじゃない! 魔族が人間を守るはずがないわ!!」


 アーサーを突き飛ばし、足を引き摺りながら魔法使いの方へ向かった臨に、女はぎゅっと杖を握る。

臨が歩く度に流れる血を見て、神官の少女や傭兵達は息を呑んだ。


「魔族が悪? 誰が言った。どうせテメェらの上が垂れ流した妄想だろ?! 事実を知ろうともしねぇテメェの情報が正しいと思い込んで言葉だろう!!」

「だって事実だもの! 魔族に街を襲われた歴史があるわ! それに東に渡った勇者達は帰って来ない!! 悪を消し去り、国に安寧をもたらすのが私達の使命であるの! 私達が奮闘するからあなた達は平和に暮らせるのよ!」


 スパン、と臨が女の頭を叩いた。

喧嘩の王道である平手打ちではなく、悪ガキを叱るような叩き方をした臨に遠巻きに二人を見ていた人間も魔族も、え? と思うが口には出さない。


「勝手な正義感を押し付けるな!! これの何処が平和だ! あ?! 平和に暮らしてるこっちで暴れてんのはそっちだろ!! 歴史があると言ったな!?

じゃあ聞くがそっちに犯罪者は居ねぇのか! 盗賊、快楽殺人者に人間は居ねぇのか?!」

「居るわよ! 居るけど、それとコレとは話が別だわ! すり替えないで!!」

「すり替えてねぇ! 同じ事言ってんだよ!!」


 臨に突き飛ばされ、石畳に尻餅をついたアーサーは、咳き込むだけ咳き込んだ後、呆然と成り行きを見守っていた。



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