第三十八話〜坑道内〜
坑道内は、数メートルおきに壁にランタンがともしてあり、人の手が加えられているのがよく感じられた。
この「古びた坑道」は最もよくマジックストーンが取れる場所ということで、やってくる発掘者も多い。
他の坑道がどうなっているのかは知らないが、少なくともこの坑道内においては、明かりの保障はなされているようだ。
「ね、そういえばさぁ」
坑道内を歩きながら、クレアが不意に声を上げた。
「この坑道、一週間くらい前に、行方不明者が出たらしいよ」
クレアの言葉に3人は驚いたような顔を彼女に向けた。
「あ、これ、別に正確な情報ってわけじゃないんだけど、町の人が話してるの、たまたま聞いちゃったんだ」
「この坑道内で行方不明事件・・・、知りませんでした」
ルークが少し難しい顔をして呟いた。
だがその情報をルークが知らなかったのは、仕方ないことだった。
もともと魔物が出る危険性があるこの鉱山で、行方不明者が出たところでそう珍しくはないのだ。
魔物に殺される率は確かに以前と比べて格段に減っているが、それでも他の地に比べれば、その率が高いのには違いない。
だから行方不明者が出たところで、町ではそう大きな話題にもならないのだ。
まして行方不明からもう一週間たっている。
町のものたちは、もうほとんど行方不明者のことなど話題にしない。
クレアがたまたま情報を聞けたことが、幸運だっただけなのだ。
「ここで行方不明ってことは、多分その人もう死んでるよね〜」
ハロルドが言った。
そう。この鉱山で行方不明は、すなわち死を意味する。
おそらくこの坑道内のどこかに、行方不明者の死体が転がっているはずだ。
「行方不明者は二人いて、一人が発掘者、もう一人が用心棒だって。二人と同行していて、命からがら、唯一逃げ出すことができた発掘者の人の弟子がいろいろ証言してるみたい。その人の話によると、二人は魔物に殺されたんだって。だから一応行方不明者扱いになってるけど、二人ともほぼ100%、死んでると思う」
「用心棒がいて、それでも殺されたのか」
クレアの言葉を聞き、アスカが呟いた。
この町にいる用心棒たちは、みな腕が立つものばかりだという。事実、この村に用心棒が居つくようになってから、坑道内での死亡率はぐんと減ったのだ。
そんな用心棒がついていても、殺される相手。
そんな魔物が、この坑道内にいるのだ。
アスカは、小さく握りこぶしを握った。
「あれ、どうしたんでしょう?」
ふと先頭を歩くルークが立ち止まり、首をかしげた。
「どうしたんだよ?」
「ここから先・・・ランタンが一つ残らず破壊されています」
ルークに言われて前を見てみれば、確かに、今アスカたちが立っているところから先に、ランタンはひとつも無かった。そして地面に、無残に砕かれたランタンの残骸が見える。
「なんか、壊れてるってよりも壊されてるって感じだねぇ〜」
「うん・・・、私達に、これより先には入るなって言っているみたい・・・」
「マジックストーンの採掘場所まではもうすぐですが・・・進みますか?」
ルークは確認するように3人に言った。
「もちろん!」
「当たり前だよ〜!」
「ここまで来て帰れるか!」
3人は引き返す気などさらさらないらしい。
ルークは苦笑し、そして壁にかけてあったランタンをひとつ手に取った。
「では、行きましょうか」
4人はたった一つのランタンを頼りに、暗闇の奥へと進んでいった。
次話〜『魔物』〜