第三十七話〜古びた坑道〜
「あー、疲れたー!」
アスカは宿に着き、自分の部屋に入ると、ベッドにそのままダイブした。
「自分で言うのもなんだけど、将来的にはスタイリストにでもなれるんじゃないかなぁ?」
先程褒められたことに、自信を持ち冗談交じりの独り言を、アスカはこぼした。
ベッドに寝転がりながら、アスカはダーヴァが言った言葉を何度も頭の中で繰り返していた。
『・・・単刀直入に言う、先日イビルナイツ最高司令官のヴァイス総司令官から宣戦布告の通知が届いた』
「戦争が始まる・・・」
そう考えると、何だか、自分の体が熱っぽくなるのを感じる。
語彙の貧弱なアスカは、自分の気持ちをうまく言葉にできない。
簡単な単語で言うならば、それは興奮と不安の入り混じったものだった。
イビルナイツとの戦争。
もちろんそれは命がけのものになるだろう。もしかしたら、アスカだって死んでしまうかもしれない。不安だ。
しかし、それとは逆に興奮している自分もいるのだ。
自分がどこまで戦えるのか試してみたい。そんな気持ちが、アスカの中にはあった。
不安と興奮、興奮と不安。
相反する二つの気持ちが、アスカの中で交じり合っていた。
アスカは天井を見上げ、ぎゅっと拳を握り締める。
しばらくして拳をゆっくりと開くと、アスカは小さくため息をついた。
いくら悩んでも仕方のないことだ。それは、わかっていることなのに悩んでしまう。不思議な気分だ。
そんなことを呟きながら顔をパシッと叩き、気持ちを切り替えた。
もう寝よう。明日は早い。
アスカは目を瞑った。
翌朝、乾いた日差しが、アスカの顔を照らした。和みを感じることの出来ない光だった。
「こんな朝日もあるんだな・・・」
アスカはゆっくりと目覚めた。
「さて、着替えて支度するか」
アスカが着替えようと寝巻きを脱ぎ始めると、ドアを誰かが叩いた。
コンコン・・・
「アスカ〜起きてる?」
「あぁ〜、起きてるよ」
「みんなもうご飯食べてるよ!!着替えたらロビーに来てね」
「はいはいっと」
返事をすると、またゆっくりと着替えをアスカは始めた。
「おはよう、アスカ君っ!!」
「あぁ、おはよう」
ハロルドにアスカは静かに挨拶をした。
「おや、アスカ元気がありませんねぇ。具合が優れないんですか?」
「いや、戦争前だからさ、いつまでもはしゃいでいられないなって思ってさ・・・」
「はしゃぐのと元気がないのは違いますよ。今のアスカは元気がないだけです。そう深く考えても仕方ありません。
今は、今やるべきことにだけ集中しましょう。戦争まで時間はまだあります」
「そうだな・・・。けど、やっぱりすこしは先の事を考えないと」
「まぁ確かにね、私たちもいつまでもへらへらしてられないよね」
「ルークさんはともかく、俺やクレアちゃん、アスカ君は戦闘慣れしてないしね」
「まぁ〜坑道内は魔物が出ますし、戦い慣れするのにはそう時間は掛からないと思います」
「それは、いいんだけどさ〜。強過ぎる魔物は出てきて欲しくないなぁ」
「弱い者と戦い続けても、強くなれません。自分より強い者と戦う事でその強い相手から沢山の事を学ぶのですよ」
「まぁ〜強いのが出てきたら、それはそれでやるしかないよっ」
「あぁ、そうだな」
「さて、そろそろ坑道へ向かいましょう!!」
一同は支度を済ませ、マジックストーンが最も多く発掘できると言われている「古びた坑道」へと向かって行った。
次話〜『坑道内』〜