第三十話〜拳〜
洞穴の中は真っ暗でとても明かりなしでは、中には入れなさそうな場所だった。
「おーい、誰かいるかー?」
アスカが声を張り上げた。
すると穴の奥からも「おーい」という言葉が返ってきた。
「中に誰かいるんだ!!」
クレアがぱっと顔を輝かせる。
「行ってみましょう、中は真っ暗で危険です。なるべく固まって行動しましょう」
4人は頷きあい、中に入ろうとした。が、そのとき。
アスカたちは背中にぞくっとするものを感じた。何かが重くのしかかるような、そんな感覚だった。
4人が同時に後ろをパッと振り返ると、そこには身の丈4メートルはあろうかという巨大な獣が立っていた。
「うわっ!!」
「でかっ!!」
「こわっ!!」
アスカ達の反応は、期待通りだった。
アスカとハロルドは、装備していた武器を構え、クレアは数歩後退し、杖を構え体勢を整えた。が、しかし、ルークは武器も構えずに黙り込んでいた。
「何やってんだルーク!!危険だぞ!!」
そう言うとアスカは、いつでも魔物の動きに対応できるよう、体制を取った。
「・・・待ってください。彼は敵ではありません」
ルークの言った言葉の意味を理解するのにアスカ達は少し時間がかかった。今にも太くて大きなその拳が、アスカ達に落ちてきそうなのだから当然だ。
「どういう意味なのルーク?」
クレアが尋ねると、ルークが口を開いた。
「彼はこの山に住む、伝説の獣人の一人です。彼の持つ拳の硬さ、強さは魔物の中で世界最強クラスと言われている程です。彼の名は、その伝説級の拳に因んで『フィスト』と呼ばれています」
「で、それが攻撃してこないってことと、どう繋がるんだ?」
「彼は、人間にその力を貸してくれる、『存在』なんです。この世には、旋律師、あぁ旋律師と言うのは、呪文を主な戦闘方法として戦う人のことです。呪文を発動する際、詠唱を詠うと言う旋律を奏でますから旋律師と言うんです。それから魔術を主に使う魔術師、そして彼のような魔物を召喚し、戦わせる『召喚師』がいます。つまり、魔物は魔物でも彼は味方なんです」
「そういうことだ・・・」
低くて、背筋にゾッとくるような声が聞こえた。
「試したんですか?『村』の人々が私達を」
「?」
「そのとおりだ。この村に来た時に村の者がいなくなったと言われたと思うがそれは嘘だ」
この展開に、アスカやクレアは、もちろんハロルドも付いていけなかった。