第二十一話〜もう一つの店〜
真っ黒な店を後にしたアスカ達は、白いコート屋と言う店へと向かっていた。
「それにしても黒かったな・・・パン屋」
「はい。真っ黒でしたね・・・パン屋」
「全然おいしそうなパン屋さんじゃなかったよぉ・・・」
「俺よくわからないけど、ちょっとショックだったよ・・・」
一同は、店名と店の見た目のギャップの激しさに何故かショックを受けていた。
「あっここだよ!!」
クレアはそう言うと早歩きになった。
「・・・今度は普通だ。ここも真っ黒だったら俺立ち直れなかったよ〜。さっ中に入ろうぜ」
アスカはホッとした顔で店に入ろうと言った。
「そうですね。中へ入りましょう」
中へ入ったアスカ達の目の前には、想像を越えた世界が広がっていた。
「いや〜ここは、普通で安心したよ〜。・・・・・・『黒いコート』しか売ってねぇぇぇぇ!!!」
アスカはその光景に己の甘さを知ったのだった。油断してはならないと言う事を。
「うわぁやばい、俺なんか泣きそうだよ〜」
クレアは泣きそうなハロルドを、微笑みながら励ました。
「ははっ愉快ですね〜」
そんな会話を続けていると奥からこの店の従業員と思われる女性が出てきた。
「珍しいわ〜ここにお客さんが来るなんて」
そりゃそうだろう・・・一同は心の中でつぶやいた。
「急で申し訳ありませんが、お尋ねしたことがありまして。お時間よろしいですか?」
ルークがその女性に聞きたい事を尋ねた。
「そういう事件があったのは知ってるけど・・・あたしには心当たりないわね〜」
サロマと名乗ったその従業員の女性は少し困ったように言った。
「そうですか」
サロマの答えを聞き、ルークが残念そうに言った。
ここでも収穫なし。
4人は諦めて店を出ようとした。が、そのとき、サロマが不意に「あ!」と声を上げた。
「何か思い出したんですか? サロマさん」
クレアが期待に満ちた目でサロマの方を振り返った。
「ちょっと噂で聞いたんだけどね、ここと同じ「白いコート」って名前のパン屋さんの主人が事件について何か知ってるみたいなのよ」
「ほ、本当ですか?」
「いや、ただの噂だからあてにされても困るけどね」
「でもさっきその店行ってみたけど、事件のこと話したらいきなり怒り出して話なんて聞けなかったぜ?」
アスカの言葉に、サロマはうーんと唸った。
「あの人、最近何かに怯えてるみたいなのよね」
「怯えてる?」
「ええ。前までは普通の人だったんだけど、最近はやたら挙動不審になっちゃって。店に閉じ篭って外に出ようとしないの」
4人は顔を見合わせた。
「どうする? もう一度あのパン屋に行ってみる?」
「でもサロマさんの言葉が本当なら、簡単に私たちを信じてはくれないんじゃない?」
ハロルドにクレアが言葉を返す。
4人が同時に唸った。
と、そのとき、町中にどーんという巨大な音が響き渡った。
「な、なんだ!?」
「爆発音です!」
「どこからだ!?」
アスカは辺りを見回したが、町中に薄く掛かっている霧のカーテンにより、場所が特定できない。
「あの方向・・・さっきのパン屋さんじゃ!?」
クレアの言葉にアスカは、はっとした。
「行こう!」
ハロルドの言葉をきっかけに、4人は一斉にパン屋へと駆け出していった。
「・・・・・・」
駆け出していった4人の背中を、サロマは無言で店の窓から見つめていた。
次話〜『焼け跡』〜