第二話〜覚醒〜
「その二人を頼みますよ、ロベルト」槍を持った青年が言った。
「ロベルト・・・?」聞き覚えのある名前だった。その名はアスカがまだ幼い頃によく遊んだ4つほど歳の離れた友人の名だった。だが、はっきりと顔を見た訳でもなかったのでアスカは何も言わなかった。
「わかった、そっちはお前に任せるよ」
「では、遠慮なくいきますよ。皆さん少し下がってください」そう槍を持った青年が言うと同時に「百烈乱舞」っと声が響き渡る。すると辺りの魔物が一掃された。しかし倒しても倒しても魔物が出て来てきりがない。
「くっ!!きりがありませんねぇ。しかし何故こんな所に一般人が?」
「どうやらそんな話をしてる場合じゃねぇみたいだ。この戦闘でこの遺跡自体の崩壊の可能性があるぞ」
「そうですね。目的の物も手に入りましたし、これ以上戦闘しても意味がないでしょう。私が呪文で道を作りますので合図と同時に駆け抜けてください」その場にいた全員が頷いた。
槍を持った青年が詠唱を唱え始める「燃え上がれ爆炎、灼熱の剛火」「バーストフレイム!!」
燃え盛る爆炎と激しい爆風が辺りの魔物吹き飛ばした。そして一筋の道が現れた。
「今です。走ってください!!」その掛け声とともに一同は全力で走り出した。
「なんでこんな目にあわなきゃいけねぇんだよぉ・・・」アスカが面倒そうな顔で言った。
「文句をいうヒマがあったらもっと速く走れよ〜」
「わかってるよ。ったく散々な一日だ・・・うっうわっ!!」
「いてぇ」と言う声が聞こえたと同時にクレアが振り向くとアスカ転んでいた。
「なっなに転んでるのよ!!」クレアが焦りながら言う。
「やっやばい!!ここで死ぬのか?」アスカが諦めたその時、ロベルトが大声でアスカに怒鳴りつけた。
「ボケッがそんなこと言ってねぇでさっさと立って走れ!!」
カキンッ・・・剣が弾かれた時の音が響いた。とても嫌な感覚がアスカの胸を過ぎる。
ぼとっ・・・それに続くように何かやわらかいものが地面に落ちる音がした。恐る恐る音がした方を見るとロベルトが立っていた。
「大丈夫・・・か?」弱々しい声でロベルトが尋ねてくる。その時ふと見えたその顔は紛れもなくあのロベルトだった。バタッとロベルトは崩れるように倒れ、アスカが駆け寄る。
「ロベルト!!大丈夫か!!返事してくれよおいっ!!なぁわかるか?俺だよ!!アスカだよ!!聞えたら返事してくれよ・・・俺はいつもロベルト・・・お前に迷惑をかけちゃうな・・・」
アスカが目に涙を浮かべながら言った。するとロベルトがゆっくりと口を開いた。
「・・・わかってたぜアスカ。最初に会った時にあのアスカだって気が付いてた。大きくなったなぁアスカ」微笑みながらロベルトが言った。ロベルトはアスカをかばった際に、魔物に右腕を切り落とされてしまったのだった。重症だった。血が勢いよく吹き出る。
「バカッ死んじまうみたいなこと言ってんじゃねぇよ!!止血すれば何とかなるから・・・」
「あぁわりぃ。俺もまだ死ぬと決まった訳じゃないもんな。」
そう言うとゆっくりとロベルトの目が閉じた。
「ロベルト?おいっロベルト!!」アスカが問い掛けたが返事はなかった。それを泣きながらクレアが見守り、槍を持った青年がクレアに先に行くように言う。がクレアは動こうとしなかった。アスカの手や服にはロベルトの血がべっとりとついていた。
「・・・おい・・・ロベルトにはな・・・親父より優れたホーリーナイツになるって夢があったんだぞ・・・その為に沢山辛い目に遭って、それでも乗り越えてここまで頑張ってきたんだぞ!!」
アスカがロベルトを抱えたまま言った。
「ロベルトの夢を返せぇぇぇ!!!」勢いよくアスカが魔物の方へ突っ込んでいった。
「危険です!!やめてください!!」槍を持った青年は大声で言ったが激怒したアスカの耳にはその言葉は入らなかった。
「だぁりゃぁぁぁぁぁ!!!」一番手前にいた魔物の顔を思いっきり殴った。そして次の瞬間アスカが手のひらを魔物達がいる方にかざした。
「うっうわぁぁあぁああぁあぁぁ!!!!」アスカの叫び声とともに手のひらから激しい衝撃波のような力が炸裂した。あまりの威力に魔物どころか辺りの壁まで消し飛んでしまった。
「ぐっぐぁあぁあああぁぁああぁぁあぁ!!!」アスカが魔物のような声を上げていた。
「こっこの力は超波動・・・」槍を持った青年がつぶやくように言った。
「しかしこれは、怒りによる覚醒。このままでは、こちらも魔物のようにされてしまう。それに先ほどの超波動でこの遺跡自体が崩れかけています」重い口調で槍を持った青年が言う。
「ゆるさねぇ!!!全員殺す・・・コロス・・・ころ・・」狂ったアスカがそう言い掛けた時、クレアがアスカにぎゅっと抱きついた。
「もうやめて・・・アスカ・・・」静かにクレアが言った。