*起*
「ねぇ、アンタと生徒会長、どっちの方が×××デカいの?」
津々浦第二高校。オレの教室。昼休み。
馬渕翔子のまさかの第一声に、オレは自分の耳を疑った。
もちろん、質問の一部が聞き取れなかったからじゃない。諸事情により『×××』となっているが、実際ははっきりと三文字の単語が聞こえた。むしろ、そこしか聞こえなかったといっても過言ではない。
「あの、さ。教室で女子がそういう発言を堂々とするべきじゃねぇと、オレは思うんだが……」
つーか、教室以外でもダメな気がする。
「イイじゃんか、別に。語尾が『ぽ』じゃなくて『こ』だっただけ上出来だと思ってもらわなきゃ」
「単語を限定できるような発言はするんじゃねぇ! 『ぽ』だろうが『こ』だろうがアウトはアウトだ!」
そのせいで年齢制限になったんだぞ、このヤロウ。
「うるさいなぁ、薄原は。それにこれは私じゃなくて、この世界を作った神様のせいなんだから」
「……………」
とんだカミサマもいたもんだ。もし会えたら、斬り捌いてあげたい。
「それとも何? ××××って言えばイイ? もしくは丁寧に、お××××って――」
「即アウトだ! 三者三振でアウトだ! 三者三様、口を揃えてアウトだ!」
「何それ? もしかして野球のバットと×××を掛けて――」
「ゴメン、頼む! もう言わないでくれ! これ以上、年齢制限を厳しくしないでくれ!」
つーか、設定上オレたち十七歳なんだからな。次の年齢制限は十八歳以上になるから、オレたちの登場自体が危うくなるんだからな。ただでさえ今のご時世、そういうことが厳しくなってるし。
「……はぁ。アンタのために一応言っとくけどさ」
と、突然深いため息を吐き、残念そうな目でオレを見る馬渕。
「女子はこのくらいの話、普通にしてんだよ。アンタの女子理想像、壊すようで悪いけど」
「な、何だと……」
結城もこんな話をしていると言うのか。
まさか。そんなバカな。
長年の相棒に裏切られた気分だ。背中を任せていたヤツに、突然後ろから刺された気分だ。
今のオレで言うならヴィアン――は、ねぇな。確実にねぇな。
アイツなんて何一つ信用に値しない。一緒にいればいる程、信じられないヤロウだ。
むしろ、ついこの間出会ったばかりの大神さんの方が信用できる。後遺症として未だ残るパワーとスピード、そして素直な性格(ヴィアンは一片も持ち合わせていない)は十二分に信頼できるモノだ。
現に、魚住さんの件でも助けてもらったし。
「そういえば、アンタと生徒会長さ」
と、さもことのついでのように。
今、思い出したことのように。
実に些細なことを話すように。
「この間、公園で魚住先生を囲んで何してたの?」
これが、津々浦第二高校陸上部のエース・馬渕翔子との久々の会話。
今回のお話の対戦相手・とべないペガサスとの出会い。
――だけど、このときのオレはお約束通り、まだ何も知らない。