*序*
現代活劇ファンタジー“もどき”第四弾。
次なる対戦相手は「天馬」。
楽しんで書いておりますので、楽しんで読んで頂けたなら、これ幸い。
それは、白い翼だった。
あらゆる穢れを知らない白。
何物にも染まることのない気高き白。
生まれる影さえも飲み込んでしまうような白。
――綺麗だ。
素直に、率直に、そんな言葉が自然と出てきた。
むしろ、口にしなかったことが不思議なくらいだ。いや、もしかしたらこのときのオレは言葉という概念を忘れていたのかもしれない。
ただそれ程に。
ただそれ程に、美しい白い翼だった。
……オレのとは正反対だな。
しばらく(自分的にはかなりの時間)見蕩れた後、ふとそう思った。
やっぱり、宿したモノが違う。
ペガサス。天馬。神話の存在。
ドッペルゲンガーとは伝説としての格が違う。……なんて言うとオレの影は拗ねるかもしれないけど、でもそれが真実であり、事実だ。
どうしようもなく事実、オレたちはアイツに勝てなかった。
格が――いや、次元が違い過ぎていた。
勝てる、なんて思ったのが間違っていた。間違い過ぎていた。
だけど。
だけど、勝とう、とは今でも思っている。勝率の問題ではなく、意志の問題として。
オレは、勝たなくてはならない。
だから、別格だろうが異次元だろうが関係ない。
そして、オレだってあの頃のままではない。格や次元はともかく、レベルは上がったはずだ。
もう二度と、アイツに宿ったあの――
「あのさ。あんまりジロジロ見ないでくれる? アンタに変な気持ちになられても困るし」
その言葉のせいで、オレの決意は完全に砕け散った。それはもう、ガラスでも叩き割るような音で。
「……変な気持ちってのは、腹の底から沸き上がるこの赤黒い感情のことか?」
少なからず劣情だったり、欲情だったり、発情だったりはしてない。
そりゃ、健康的な背中だとは思ったけど。
けど、それだけだ。
あいにく、オレは結城以外に劣情だったり、欲情だったり、発情だったりはしない。断じて、しない。
そう堂々と宣言したいのは山々だが、それには危険な香りが漂うのでしないだけだ。なんとなく、何かを失ってしまう恐れがあるからだ。
……もう既に手遅れな気もしないでもないが。
まぁ何にせよ、一瞬でもコイツのことを『綺麗』なんて思ったオレがバカだった。
つまり、バカな男代表だ。
もしかしたら日本代表も狙えるかも。
「大丈夫、確実にベスト4には入れるって。そしてアンタがバカでチビだってことは読者全員が知ってるって」
「よぅし、言いたいことは色々あるが一つだけにしといてやる」
今、赤黒い感情は真っ黒い感情に変わった。これでオレもミチルと同じカラーリングだ。影と同じダークでブラックだ。
「『オレの』『モノローグを』『読むな』」
「別に、そんなモン読んでないわよ。アンタのバカ面に書いてあんの」
「オレはそんな面した覚えはねぇよ!」
「じゃあチビ面」
「そんな面はねぇ! オレより少し、少しだけ、ほんの少しデカいからって調子に乗るなよ!」
「……必死ね、アンタも。“たかが”身長のことで」
「……………」
くそ、文字通り見下されてる。
やっぱりオレ、コイツ嫌いだ。
結局、白と黒は混じり合うことはないんだろう。
なんて、オレがモノローグを語っていると、何故かノッポ面をやや赤く染めて、
「でさ、薄原。私そろそろ服着てイイ?」
と、彼女は言った。