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私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね? 〜不実な婚約者を見限って。冷え性令嬢は、熱愛を希望します  作者: みこと。@ゆるゆる活動中*´꒳`ฅ


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7.冷え性令嬢は、熱愛を希望します

 晴天の王宮。クローディアは王女リアナ(・・・・・)と共に、見送りに集まった貴族たちに囲まれていた。

 商談を兼ね、クローディア自身もラグナス国に向かうことが決定し、リアナの復路に同行するからである。


 連なる馬車を前に、令嬢のひとりが言う。


「残念ですわね、クローディア様。リアン王子殿下が先に帰ってしまわれたなんて」

「気を落とさないでね。婚約者を迎え入れる準備のためとおっしゃっていたそうだから、きっと最高の用意をしてあなたを迎えてくださるわ」


 彼女たちはクローディアに友好的だった。寒い日のドレス対策を数多く編み出したのがクローディアだと知れ渡った新年祭以降、何かと交友を求められ、"寒いの苦手"で共感し合ううちに仲良くなったのだ。


 令嬢たちの慰めに、クローディアは何とも言えない表情を作る。


(まさかここにいる王女様が王子リアン様本人で、変身しちゃったから先に帰ったフリをした、なんて言えないものね)


 リアナを見ると、()()()()()複雑な面持ちをしていた。


 ()()、周期によって女性に変わると言っていた。


 クローディアとの出会いで一時的に周期を超えて男身に戻ったものの、恋する相手との発展不足から、またも周期に引きずられてしまったらしい。


 勘の鋭い者が気づかないように、リアナは他者との接触を控えめにしている。クローディアの影に隠れる佇まいは、楚々(そそ)とした内気な姫君そのものだ。


「ですが道中、妹姫様と交流を深められるのはチャンスですわ。身内を落としておくことは肝要ですもの」


 握りこぶしを作った令嬢のひとりが、クローディアに耳打ちする。

「すでに十分、懐かれておいでのようですが」との言葉に、愛想笑いを返しつつ、クローディアの内心は旅への緊張でいっぱいだった。


(特別待遇で同じ馬車に乗せていただくことになったけど、どんな会話したら良いの? お付きの侍女さんだって別の馬車なのに)


 そう。表向きは仕事の旅だ。

 "自ら案内を務めるので、ぜひ自国の資材を吟味して欲しい"とリアンから誘われ、ラグナスの鉱石類を見れるという魅惑の提案は、クローディアの胸に熱く響いた。

 父アルドリット伯爵がラグナス行きを許可したことは、未だ信じられない。


(あのお父様があっさり折れてくださるなんて)


 ランバートとの破談も、すんなり認められた。

 間に入ってくれたリアン──伯爵と面会した時は、王子状態だった──の存在も大きかったが、アルドリット伯爵家とズワース侯爵家での取り決めでは、「最優先でクローディアを大事にする」という誓約が組み込まれていたらしいのだ。


 それゆえ宴席のたびに娘が放置されてるなど思いもよらず。

 クローディアの訴えを、単なるワガママや痴話げんかの類だと受け取っていた伯爵は、事の真相を知り大変に激怒していた。


 娘の主張を聞かなかった伯爵も悪いと、クローディアは思うのだが。


(もっと私の話を聞いてくれたら良かったのに。シャイって何よ。"年頃の娘に男親が近づくと嫌われる"なんてお父様に刷り込んだヤツ、許さん!)


 今回のことで、アルドリット伯爵の正体は、娘の幸せを願う不器用な父親だったと判明した。だが、あやうく最低男に嫁がされるところだったクローディアとしてはおさまりきらず、「今後は私を信じてください!」と強気で宣言。


 その甲斐もあり、"クローディア嬢のことは責任をもって守る"というリアンの後押しで、クローディアは今ここにいる。


 ランバートはその後、侯爵家から追い出されたと聞く。

 タバサとは喧嘩別れしたらしい。


 ランバートが「新年祭で婚約破棄したのは、タバサと悪友たちが酒を勧め、気が大きくなったせい」と責め立てたため、周りの人間は立腹し、呆れ、誰も彼を助けなくなった。

 自業自得である。


 現在(いま)はアルドリット家への慰謝料で大金を失ったことから、安い長屋暮らしを余儀なくされているらしい。あのランバートがいつまで耐えられるか。いや、無理だろう。早々に犯罪に走らなければ良いのだが。


(犯罪だと被害が出てしまうから、商家のお金持ちマダムに拾ってもらうのが無難じゃないかしら。ランバート、顔は良いし)


 プライドが邪魔しなければ、何とかなりそうな男ではある。そのプライドが一番の問題ではあるが。


 ランバートが落ちぶれると、タバサをエスコートする人間はいなくなった。

 彼女は大好きな夜会にも行けず、また新年祭でのやらかしが鳴り響いているため、早々にどこかの後妻として嫁がされる……というのは、寒がり令嬢仲間からの情報である。


 ほんの短期間で、クローディアを取り巻く環境は大きく変わった。


(中でも一番の変化は、婚約相手が替わったこと……)


 そっとリアナを見ると、とたんに視線が合った。急いで目を逸らす。耳が、すごく熱い。きっと自分は赤くなってしまっている……!


 リアンからは正式に婚約を申し込まれ、表向き、謹んでお受けしている。

 でなければアルドリット伯爵が娘を託すわけがない。


 大国なのに、国元に(はか)ったりはしなくて良いらしい。

 婚約者選びに関して国王からは一任されているし、王や次期王の決定は強権で通るのがラグナス国なのだ。


 これ以上ない良縁。


 けれども"表向き"と注釈がつくのは、クローディアが彼からの求愛を受け止め切れないでいるから。


 長年に渡るランバートからの酷い扱いが、自分でも気づかぬうちに深い傷となり、恋愛や結婚に関して臆病になってしまっていることに気づいたのは、つい先日。

 さらに相手は次期ラグナス王だ。婚約のまま結婚まで進めば、大国の王妃という重責が待っている。しがない伯爵家の娘には荷が重い。


 そんなクローディアを、リアンは理解してくれた。


 無理せずゆっくり、クローディアのテンポに合わせて歩もうと頷いた彼はいま、事業協力者兼、出資者兼、恋人候補としての位置にとどまってくれている。


 恋する相手と進展しないと自身の性別が安定しないにも関わらず、だ。

 気持ち(はや)ることだろうに申し訳ないと思う。


(本当に、私には過ぎたお相手だわ)


 恐縮するクローディアは気づいてない。

 "片時も離れたくないし、絶対に(のが)したくないから、一緒に連れ帰る"というリアンの本音を。



「クローディア嬢、そろそろ出発なので……」

「あっ、はい」


 リアナに促され、馬車に乗り込む。


 着座して扉が閉まると、正面の王女が大きなマントを持っている。


「殿下、それは?」


 リアンと呼んでもリアナと呼んでもややこしいので、すっかり"殿下"呼びで定着したクローディアに、リアナが笑顔で返す。


「道中で冷えた時に役立つかと思いまして」


(なるほど。膝掛け)

 

 冷え性令嬢もとい、冷え性王女は健在らしい。


「──というのは表向きで、これがあれば突然変身してしまっても身体が隠せます」


(おうっふぅっ!)


 相変わらず苦労しているらしい。


「周期外の変身をご想定されているのですね?」


 尋ねると、思いがけずこぼれる色香で微笑まれた。

 

「覚悟なさってくださいね? 私があなたをどれほど慕っているか、旅の間にたっぷりお伝えしますので」


「えっ?」


 窓の外で、手を振る貴族たちが見える。

 御者の一鞭で、馬車が軽快に滑り出した。


「えっ、えっ、でも」


 リアナがにこやかに馬車の外に手を振り返している。

 車輪の音で、何か聞き間違えたと信じたい。


(そ、そういえば恋しい相手との親密度で突然男性に戻るって……)


 そうは言ってない。だが、それに似た感じのことを、以前聞いた気がする。それに実際目撃している。あの控室で。


(ここは馬車で、密室で、二人きりで、リアン王子とは婚約してて?)


 急にバクバクと心臓が暴れ出す。

 自分は何を呑気(のんき)に安心していたのか。リアナ王女はリアン王子だというのに。


「お、お話では、私の気持ちを待ってくださると……」


 視線を揺らしつつ、しどろもどろでクローディアが言うと、リアナが信頼に足る顔で、油断ならない言葉を返した。


「もちろん、ご安心ください。決して無理強いはいたしません。──ですが、まるで意識されないというのも、私としては支障がありますので、こちらを向いていただく努力はしようと思います」


 言いながら、クローディアの片手を(すく)って口づけを落とす仕草は妖艶で、たとえ今同性でも意識してしまう特大インパクトがあった。


「それでなくとも()()()姿()では、ハンデがありますので」


(ハンデ? ハンデって言った? どこが? リアナ様でこの破壊力なのに、リアン様だと私の心臓破裂しちゃうんじゃ──)


「それに時々──。私が婚約相手であることを、クローディア嬢に忘れられているのではないかと、思うこともありますし」


 リアナが寂しげに目を伏せると、白い頬に長いまつげが影を落とし、罪悪感を刺激される。すごく。


「あっ、う、あ」

(見抜かれてる? やっ、でも、ちゃんと緊張してたし、私)


 チラリ、とリアナが目を上げ、クローディアの様子をうかがう。


 そのタイミングで「わ、忘れたりしてません」

 力いっぱい伝えて、落ち込む婚約者をどう慰めたものかとあたふたするクローディアに、リアナが目を細めた。

 

「ああ。本当に──愛おしい」


「ぴゃっ」 


 思わずこぼれた風な声は(つや)やかで。免疫のないクローディアはたちどころに()で上がってしまった。

 そんなクローディアの反応を楽しげに見守るリアナの眼差しは、どこまでも優しく柔らかい。


「どうぞ気楽になさってください。旅を楽しんでいただくのが一番ですし」


(気楽に……?)


「大切にします、クローディア嬢。あなたは私が、初めて好きになった方だから。あなたも、私を好きになってくださったら嬉しいです」


 万感の思いを乗せた、好意全開の表情で告げられてしまったクローディアは発熱まっしぐら。


(気楽になんて、出来るわけないわ──!!)


 クローディアが出会った冷え性令嬢が、恋人をホコホコに温めたがる熱愛主義者だと思い知るのはすぐ未来(さき)で。


 ラグナス王家にかけられた女神の怒りが解ける日はいつになるのか。

 (きた)る日を待ち望みつつ、鉱石姫を王妃に迎えた国は、さらなる発展を遂げようとしていた。




 お読みいただき有難うございましたー!!\(*^▽^*)/


「冷え性令嬢って、そっちかーい」と突っ込んでいただけましたなら嬉しいです!!


 この後ラグナスに馬車は向かい、国ではリアンの乳兄弟(男)やら、影武者担当の幼馴染(女)やらが出てくる…、のではないかと想像しながら、《宝石姫と鉱石姫》完結です。

 完結出来ないとヒヤヒヤしちゃうので、無事着地できてホッ。

 更新ペースが不規則で失礼しました。


 それはそうと、今朝、web漫画でラグナスって国名と出会ってしまったので、国の名前は後ほど変更予定です。あああ、名づけ大変。


 お話を楽しんでいただけたら、どうぞ下の☆を★を色づけて応援いただけますと、次への励みになりますので、(切実に!)応援よろしくお願い申し上げます!!

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