第9話 final
現在、夜中。
確実に12時は超えている。
ぐっすりと眠っていたはずが、お手洗いに行きたくなって目が覚めた。
(うぅ、あんなことがあったから夜に寝室から出たくないのに…!)
懐中電灯を持って、お手洗いに向かう。
そして、洗面台で手を洗う。
すぐ隣には、浴室。
(怖い怖い怖い、早く手を洗って戻ろう)
そのとき、私は間違いを犯してしまった。
ただ、何も考えずに、戸締りをちゃんとしたか気になって振り返ってしまったのだ。
ふっと電気が消えた。
頭がぐわんぐわんとして、うっすらと視界のピントが合った時、部屋に何か異様な空気が流れていると肌が感じた。
そのときだった。
「ア………ア、…アァ…ア……アアアアアアアア!」
「…!」
玄関に向かっていた私は、浴室近くから、
………うめき声みたいなものを聞いた。
(どうしようどうしようどうしよう)
警察に連絡することは頭になかった。それにどうせ連絡しても無駄だと思った。
焦った私は、とりあえず玄関を出て、三澄さんに助けを求めようと、鍵を開けた。
……開けようとした。
「なんでっ、なんで鍵が開かないの?」
ガチャガチャとしても、びくとも動かない。
(死にたくない。まだ生きたい!)
寝室なら…
寝室なら!
私はもう1回振り向いて、寝室まで全速力で走った。
「ア」
浴室の扉が開く音がする。
私はギリギリ寝室に飛び込んだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
心臓がバクバクと音を立てる。
『この部屋は、何かがおかしい』
なぜか、氷室くんの言った言葉を思い出した。
「アァ……ア……アァァ」
《《何か》》が、寝室に近づいてくる。
(やめて……夢なら覚めて!早く!)
私はぎゅっと目をつむった。
「ア…アァ………」
「……………」
声が止んだ。
(どっか行った……?)
恐る恐る目を開ける。
寝室のガラスから、手をついていて、あの時見た、白い服で、長い黒髪で、
……大きい黒目の女の人が、こちらを見ていた。
……目が合った。
「はぁっ、はぁっ、きゃあああああああああああああああああああああああああ!」
それは、私の悲鳴を聞くと、ニタリと笑った。




