第57話 夏休み
「あ、泉くん、久しぶり!最近すっごく暑いね。」
「高原さん。久しぶり。もう溶けそう」
暑いから冷たいものを食べよう、ということになったため、僕たちはコンビニに入ってアイスを買った。
僕は抹茶、彼女はチョコだった。
「ふふっ、アイスを食べることなんてほとんどないから嬉しい。」
その言葉に違和感を感じたが、彼女の笑顔でその考えはすぐに消え去った。
「ところで泉くんはさ、好きな人とかいるの?」
「え?」
唐突な質問に耳を疑った。
「いないけど…」
「そっか。いや、こんな暑い夏に恋の話を聞くのも良いのかもしれないなーって思って。」
「え、高原さんはいるの?」
「いるわけないじゃん。私は人から愛とか恋の話を聞いていいなーって羨ましがる声を上げるタイプの人間だから。」
「何それ」
僕たちは笑い合った。
「……あ。」
高原さんが声を上げた。
「どうした?」
「いや……クラスメイトっぽい人が見えたなーって。」
「夏休みだし、そういうこともあるんじゃない?」
「確かに。」
彼女は近くのゴミ箱にカップとスプーンを捨てた。僕も同じようにする。
鱗雲が規則的に並んだ青空を高原さんは見上げていた。彼女はよく空を見ていると思った。
「……明日は雨かもしれないね。」
「そうだね。」
高原さんは柵に腰かけ、僕のほうを見ないでそう答えた。
「……高原さんってさ、スタイルめっちゃ良いよね。」
「えー何?急にお世辞なんか言ってどうしたの?」
高原さんがふわっと微笑む。
「いや、高原さんって身長高いし…何て言うんだろう、オーラがある。普通にすれ違ったら気付けないけど、なんとなく振り返りたくなるような。惹きつけられる感じ。」
「身長なら泉くんのほうが高いじゃん。なんか恥ずかしいな。」
彼女は口元を緩めたまま目を伏せた。その瞳の陰りを、風でなびいた黒髪が隠していた。
「…私は泉くんのこと、綺麗だと思うよ。」
「え?」
「まず、顔が良い。いくら見てても飽きない。泉くん、絶対モテてるって。泉くんの
こと好きな女子はたくさんいると思うよ?」
「そんなことないって。高原さんのほうが綺麗でしょ、どう見ても。でもそんなこと初めて言われたかも……。」
「えへっ、あとね、声も好き。軽いのに低いのが良い。私は声が良くないから憧れるし、ずっと聞いてたい。髪質も良くて羨ましい。」
「…確かに恥ずかしいな…。」
「……待って、泉くんって何でもできるじゃん。勉強も、運動も、性格も良いし…。」
「そんなことないよ。俺より優れている人なんて、この世にたくさんいるんだから。」
彼女は僕をじっと見つめた。
「…ふふふっ、私、その答えだいぶ好き。私と考え方似てる。」
「そう?」
「私、クラスで一番背が高いのね。だから泉くんがなんか新鮮に感じる。」
「僕は175。高原さんは?」
「…自称170。」
「自称って」
「169.9cm!マジでさ、この『.9』が一年くらい続いてるんだよ。誤差誤差。」
「面白すぎる」




