第56話 二人
僕たちはよく二人で遊ぶようになった。お互いの性格が、とても心地よかった。
「ね、泉くんってさ、中間テスト何点くらいだった?」
「90点台がほとんど」
「えー、同じ同じ!じゃあさ、今度の期末テストの点数で勝負しようよ!」
「いいよ、負けたほうが自販機奢りね。」
親しくなってくると、自然に言葉遣いが楽なものになっていた。
塾に行っていた僕と違い、彼女はいつも俺より点数が高かった。
「私は、国語96点、数学98点、理科93点、社会97点、英語92点!合計476点。泉くんは?」
「俺は国語94点、数学90点、理科が…95点だったかな、社会が97点、英語が90点。高原さんの勝ちかー。」
「えっ、やった!」
「高原さんってさ、優しくて気遣いもできるし、勉強もできるし…やっぱり天才だと思うんだけど。」
「そんなわけないよ、私より優れてる人なんてたくさんいるし。でもそう言ってくれて嬉しい。」
へへっ、と笑ってくれるのが嬉しかった。彼女には笑顔が似合うと思った。
「…実は私さ、生徒会に入ってるんだよね。でも理不尽なことばっかで、仕事以外は全然楽しくない。……それでも、もうすぐ夏休みだし、泉くんもいるから大丈夫。」
ある日、彼女はそう言って辛そうに笑った。目の奥には、深い感情があったように思う。
「………」
何を言えばいいのかが分からなかった。言葉自体は何度も頭に浮かんだが、それを自分が言ったところで何も解決しないと思った。
「……僕は、高原さん頑張ってると思うけどな。」
彼女は驚いたような顔をした。出会ったときと同じように。
「…ふふっ、ありがとう。そう言ってくれるのなんて、泉くんだけだよ。」
彼女はそう言うと、赤く染まった空に視線を向けた。それは息を呑むほど美しかった。
「ねぇ、知ってる?人って、すぐに変われるんだよ。」
「ん?」
彼女が空を見上げたまま、唐突に口を開いた。
「自分の心からの感情が出たとき、そしてそれに触れたとき、人間は自分の本来の姿を見失う。それが良い方向にいくときもあれば、悪い方向に行くときもある。」
彼女は俺の視線に気付くと、優しく笑った。
「……なんて、ね。ちょっと言ってみただけだよ。」
「……それは何がソース?」
「んー、ソースは私の今までの人生。まぁ13年しかないんだけどね。」
「…………」
「良い方向に行ったのが、勉強。悪い方向に行ったのが、私の感情。」
「…悪い方向に行った感情って?」
「……苦しい、って思っちゃうんだよ。何をしていても、ああ、あの時はああすれば良かったな、何かが変わったのかもしれないな、私は何をしているんだろうって。…痛みは、いつまでもなくならない。」
中2にしては、とても大人びた考えをするのだと思った。
「……高原さんは、それに触れたんでしょ?」
「…うん。そう。よく分かったね。」
「…誰が?誰が、」
「…私の家族。家族と言っても、母、だね。…自分の感情を声に出しても、何も変わらなかったけど。」
彼女は、真顔に戻った。
「…何でだろう、泉くんといると、救いを求めちゃうな。一緒にいると、本当に快適なんだ。世界に、色がついたって感じ。」
「……ありがとう。僕も高原さんと出会えて良かった。」
やがて、夏休みに入った。最初の2週間はお互い宿題を終わらせることにしていた。
彼女は学校で6割ほど終わらせていて、残っていたのは学校で終わらない科学研究や作文らしい。
かという僕も、宿題は難なく終わらせることができた。
そして、会う約束をした。




