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ひとりぐらし  作者: 雨宮 叶月
氷室伊織の場合

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第53話 人生

……今、俺の後ろに立っているものは何だ?


自分の息を吸う音が、とても鮮明に聞こえる。


こんな経験、もう2度とないだろう。あってほしくもないが。


俺の、人生の残り時間。


どうすればいい?何が正解だ?


俺は考える。必死で考えた。




「……………」



左の影がゆらりゆらりと動く。




黒しか見えないのに、どこか白い。




俺は一歩も動けなかった。少しずつ、本当に少しずつ、体が視界に入ってくる。


…頭がどうなっているのかは考えたくもない。



包丁が目に入った。見るだけで自分の腹を刺されているような感覚になる。



「……痛かったよな」



俺ははっとした。完全に無意識だった。

…でも、心からそう思ったのは事実だ。



どうしよう。

どうしたらいいのか。



ああ、もう終わりか。

ここで失敗するのか。




しかし、俺の思っていた通りにはならなかった。



後ろで、ふっ、と笑う声が聞こえた。ちらりと見えたその顔はもう、黒く塗りつぶされてはいなかった。

……ただし、黒目なのは変わらない。とても怖い。



口元が弧を描く。何かを企んでいるような、でも悲しんでいるような。


そうして、後ろの気配が消えた。



(………え?)



今では、暗闇が広がっているだけ。



俺は訳が分からないまま、寝室に戻った。



(ああ、そうだ。朝になったら、泉さんに電話しないとな。)


ぼんやりとした頭で、そう思った。





「…………はぁ」


俺は目覚めると、ため息をついた。


深く眠れたが、それは疲れからなのかそれとも恐怖なのかは分からない。



朝食を食べるまでのいつものルーティーンをこなし、泉さんの電話番号を入力した。



発信ボタンを押す。



「はーい。」


「あ、お世話になっております。404号室の氷室と申します。」


「あぁ、404号室の氷室さんね。……404号室?…え?生きてたんだ…こんなに長い期間…!」


ものすごく驚いていた。困惑した声を聞いたのは初めてかもしれない。



「でもこれからおかしくなる可能性もあるか…。

あっ、ごめんごめん。何か用があったんだよね?」


恐ろしいことを口走らないでほしい。



「はい。実は、報告し忘れていたんですけど…寝室を出て、いや出ていない時も、『見えてはいけないもの』と出会いました。」



「…………」


泉さんが急に黙る。


「…泉さん?」



「…あぁ、ごめん。『見えてはいけないもの』と出会って、そんなに正常な反応をする人なんて、君が初めてだったから驚いてしまって。良ければ、詳細を聞いても良いかな。」



「それは良いですけど…。すみません、色々あったもので、何を話せばいいのか分からないのですが…。」



「そっか…すごいね君は。じゃあ、どこまで知っているの?」


俺は泉さんが何を知っているかのほうが気になるが。

俺は言葉を選び、口を開いた。



「……()()E()の日記を見ました。」



「……え?」



「彼女の過去と、想いを。」



「…それは僕も知らなかった。どこで見つけたの?」



「クローゼットを開けたときに、最後に残っていたのが、サイト名のようなものが書かれていた紙でした。それを撃つと、出てきたんです。」



「…ちなみにタイトルは?」



「えっと、確か…『I've been having nightmares…』だったような気がします。」



泉さんは、そこでははっ、と乾いた声で笑った。色々な感情が混じっているように見えた。


俺は耐えきれず問いかけた。



「あの、泉さんは何を知っていらっしゃるんですか?」



「……その質問に答える前に、一つだけ聞くね。氷室くんは次、どうするつもりなの?」



「…俺は、正面から向き合うつもりです。物理的にも、精神的にも。」



「…分かった、ありがとう。ここまで近づいたのは、君だけだよ。俺が分かっていることを全部話すから、どこかで会おう。いつなら時間空いてる?」



「いつでも大丈夫です。なんなら今日でも。」



「……じゃあ、今日でもいいかな?13時に、俺の部屋に来て。そこから移動しよう。」



「分かりました。」


通話はそれで終わった。





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