第5話 大学
意外にもあのマンションは住みやすかった。
何も考えず条件を守っていた。
特に何のトラブルもなく、今日から大学が始まる。
三澄さんに色々教えてもらって、心構えはできているはずなのだが、やはり緊張する。
電車を乗り継ぎ、スマホでマップを確認しながら歩く。
桜の花びらが目の前を舞った。
どこからでも明るい笑い声が聞こえてくる。
やがて大学に着いた私は深呼吸をして、門へ足を踏み入れた。
(わぁ……)
ざあっと風が吹き抜ける。
たくさんの人が大学へ向かっているのは圧巻で、私もその一人だとあまり実感がわかなかった。
オリエンテーションの時間が過ぎ、休憩時間。
隣に座っていた女の子が消しゴムを落としたみたいで、無意識に拾っていた。
「ごめんっ、ありがとう!」
「いえ……」
そこで人見知りの私は、焦ってボールペンを落としてしまった。
今度はその子が拾ってくれて、二人で目を合わせて笑った。
「ありがとう…!」
「大丈夫大丈夫。私、伊波美月って言います。名前聞いてもいい?」
「宮本叶恵、です」
「えーっ、きれいな名前だね!叶恵ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろん!じゃあ私も美月ちゃんって呼ぶね。美月ちゃんのほうこそ可愛い名前だよ!」
こうして私たちは仲良くなった。大学にて初のお友達。
色々なことを話すうちに、私はマンションのことについても言及した。
「私のマンションね、入居条件がちょっと不思議だったんだ」
そう言ってスクショを美月ちゃんに見せた。
すると美月ちゃんの顔色が変わった。
「え、これ絶対ヤバイやつだよ!大丈夫?何かおかしいこととか起きてない?」
「全然大丈夫!むしろ快適だよ!」
「そっか。何かあったら絶対に私に言ってね?」
「ありがとう。」
あの条件、やっぱりおかしいのかな、とのんびり思いながら家に帰った。




