第47話 少女Eの想い⑥
『第一印象が大切だ』
私はそう思う。
例えば、私は最初呼びかけをしなかった。
だからなのか、ちゃんと呼びかけをしたって認めてもらえなかった。
だからなのか、私に勉強を教えてもらいに来た男子とも次第に話さなくなっていった。
私の声は弱くて小さい。
声を出しても気づいてもらえない。
きっと私が学校で助けを求めたって、何の解決にもならない。
例えば私が未来で生き抜くことができたとして、変わらないだろう。
私は何も諦めていない。一生懸命生きている。
それなのに、何かを失った気がする。何かを諦めたような気がする。
私は何が正解か分からない、今の私じゃ逃げ出すこともできない。期待するのももうやめた。
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私は今日も夢を見る。
家族を愛してた頃の夢。
危なくても母を助けようと必死に言葉をかけ、行動しようとしている私の姿。
目がよく見えない。ぼんやりとしていて、抽象的な世界。
歪んだ、箱の中。
けれど次第に私は伸ばしていた手をゆっくりと戻し、目をつむって駆けていく。
殺されそうで痛いときも、「死にたくない」と本能が騒いでいる。
現実では、いつだって死にたいのに。
戻れるなら過去に戻りたい。でもそれで本当に成功する?
私は何を間違えた?どうすれば良かった?
未だに分からないけれど、確かなことがある。
私は今日も声を殺して涙を拭っている。
私は今日も自分を責めている。
私は今も、息ができずに溺れている。
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「せっかくあなたのためにしたのに!」
これは母が良く言う言葉だ。
たとえ私が欲しくなくても、
「せっかく高いもの買ったんだから着なさい。」
「せっかく作ったのに、食べないなんて、この■■が」
一見私のために言っているようなことも、全部「自分がした行動」を正当化するためのもの。
そして、本人はそれに気づきたくないようで。
言い返したらまた私が悪者。
言われすぎて慣れていた、私を傷つける言葉も、私がこんなに馬鹿じゃなかったら、ここではないところに生まれていたら、我慢しないで済むのだろうか。
私を苦しませるあの人は、今日も幸せに笑っている。
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今日は、母が送ったメールの日本語がおかしいかったから指摘をした。
最初は褒めてくれた、でもあとになって
「私が書いた文を理解できないのはあなたと■■さんだけ」
って言ってきた。
母はいつだって私と誰かを比べたがる。
少しいいことがあったとき、「あなたは本当はダメな子なんだから意味がない」
テストで90点をとっても「勉強の方法が間違ってるから100点を取れない」。
人望があるあの子と、第一志望に受かったあの子。その子たちにだって欠点はある。
でも母は良い点と私の完璧じゃないところを比べる。
もう何回言われたかなんて覚えていない。去年より文章力も落ちた気がする。
でも。
私はこれからも傷つき続けるだろう。
私の心が完全に壊れるその日まで。
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今日の母は朝から機嫌が良くて、ずっと笑顔だった。
でも、私が昨日、スマホ持ってないから生徒会の中で連絡がスムーズじゃなくてみんなに気をつかわせてる、って言ったのを思い出したのか、急に責めてきた。
スマホのことばっか考えてるんなら地元の偏差値の低い高校行けば、良い大学行けるわけがない、って。
私は買ってほしいわけじゃなくて、こういう出来事があった、ってことを言いたかっただけ。
なのになんで人格否定されなきゃならないの?
私も頑張ってるはずなのに、あの子との差がどんどん開けていくようで。
ああ、また私は落ちるんだ。
私はどうしたら成功する?
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「ひどいわ。子供として」
今日は、暑さのせいか疲労のせいか、食事があまり喉を通らなかった。
それに母は激怒した。
「あんたは手伝いしないし、運動もしないし、14歳なのに、、、」
私はまだ14歳ではないし、たまには外に出たりする。でも母はそれをいつも止める。そのくせ「運動しない」なんて。
矛盾している。
私は矛盾が大嫌い。自分の言動が人にどんな影響を与えるのかも分からない人と一緒にいたくない。
「あんた他の子と同じように勉強しているのに偉そうに。他の小学生中学生は普通に生活してるのに本当に偉そう。」
私は今日も心を殺さなければならない。
今までの数少ない成功も、全部私が勝ち取ったものなのに、「全部私のおかげ」って。
本当は分かってるんじゃない?
塾に行ってる他の子が、80点も取れない現実に。
塾に行ったからって、成績が上がるのは自分次第だって。
88点さえ、母にとっては低い点数。眠れない。眠らせてくれない。
12時になっても寝れないって?
あんたが話しかけるから。私はずっと欲しかった睡眠の時間も、今では怖いんだ。




