第45話 少女Eの想い⑤
なんとか1年が終わり、中2になった。
私は信用されていないからきっと副会長と同じクラスになるだろう、と思った。
予想は当たった。
副会長選挙に落ちた私と副会長。
何を考えたらこの組み合わせになるのかと思ったが、特に気にしていないため大丈夫だ。
クラスには問題児っぽい人が何人かいたが、過ごしていると意外と静かで、2分前着席もちゃんとしている人が多かった。
そして、中間テストが始まった。
しかし、私は運が悪かった。まただ。
風邪気味で、さらさらとした鼻水が止まらない状態が数日続いた。集中できるわけがなく、勉強もほとんどできないほど辛かった。
さらに、今回の理科のテストは難化していた。平均点は50点くらいだった。
いつも90点前後の私は、理科が86点。
頑張った方だと思った。自分で課題を見つけて、反省もして。
国語96点、数学95点(これも難化)、社会97点、英語97点。
理科以外は95点以上。しかしこれで母は満足しなかった。
私が風邪気味ながらもパソコンで生徒会の仕事をしていた時。
急にドアを開けて殴ってきた。意味が分からなかった。
体中が痛くて、弱いながらも殴り返して。
そしていつも言われる「失礼」。親を叩く子供なんて世界でただ一人、お前しかいない、って。
私から叩いたわけじゃない。じゃあ私はどうすればよかったの?
私は全力を出した、だから86点。
ショック?
この点数の何が悪い?私にどうしてほしいの?貴方が満足しないだけじゃない。
貴方に操られた人生なんて、たとえ成功したっていらない。
やめて、痛い。苦しい。辛い。痛い!
助けて。誰か。早くこの地獄から救い出して。誰か殺して。
このままじゃ、私が
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今日は、委員会の取り組みであるアルミ缶デーの日だった。
それと同時に、体調が悪かった。
我慢できないほどではないが地味に痛くて、足取りが重かった。
それに、以前は早く行ったのに先生も委員長もいなくて、とても気まずい思いをしたから30分ぴったりに教室を出た。息を整えながら。
集合場所に行くと、2学年生徒会担当の先生と委員長がいた。
しかし、次に先生が言った言葉が信じられなかった。
「副委員長、遅刻です」
は?
一番最初に思ったのはそれだった。笑顔で誤魔化したが、先生への怒りと同時に自分への怒りも感じた。
いつも遅れてくるのは先生。委員長もたまに私より遅い。
なのになんで今だけ私がこんなこと言われるの?
職員室で報告されていたらと思うと胸が痛くなる。お腹がまだズキズキとする。
思えば、職場体験の2日目も同じようなことがあった。
迎えは来ないから時間に間に合えばいい、と言われ、寝不足だった私は5分前に着く時間に家を出た。
しかし実は迎えがあったのだ。
「ああよかった、来てくれた」と言われた。頭に血が上った。
リーダーなのに。
たとえ自分の身を削ってでも時間は守るべきだった。
恥ずかしいと同時に、自業自得だとも思った。
私は学んでいない。次から頑張ろうと思っても別の先生に咎められたら私の心はどうなる?
どうしよう。どうしよう。
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私は1年生の頃から特に英語を独学で頑張って勉強していた。
そのため半年前後で中学校の内容をすべて理解することができた。
父が英語の教師なのもあって、単語帳を数冊買ってもらえた。
父と私の学力は何の関係もない。
高校の内容の文法は中学校と大して変わらず、比較級の形を少し覚えればできると思っていた。
では何が足りないのか。
それは単語力だ。
単語が分からないと何も始まらない。
だから私は単語帳を完璧にする気で頑張った。最初は苦戦していた綴りも慣れてくるときまりが分かってきた。
それで、英検準2級を受けることにした。
1年生の時に共通テストの英語に挑戦してみたりもした。
結果はリーディング26点、リスニング31点とヤバイ結果で、モチベーションが下がったし、勉強してきた意味は何だろうと思った。
それでも諦めず勉強した。
問題はリスニングだった。
座った席が少し遠かったからなのか、いつも近くで英語を聞いていたからなのか、聞こえづらくて内容があまり入ってこなかった。
終わったと思った。
それから何週間か過ぎ、合否発表の日。
……合格だった。
涙が出そうなくらいうれしかった。10点あるかわからなかったリスニングも半分は取れていた。
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今日は帰りのHRで数分だけ面談をした。
きっと呼びかけのことを言われるのだろうな、と思ったら鳥肌が立ちそうだった。
やがて「ーー!」と私の名前が呼ばれた。
最初は「元気?」と聞かれた。
元気ではなかったがそうじゃないと言うバカはいないから「元気です」と言った。
「学校、どう?」
返答に困って「まあ、良いほうです」と変なことを口走ってしまったがそんなに気にすることでもない。
それから先生は私のやってきたことを正しいことだ、と褒め始めた。
1年生の先生より断然いいが、私は「ああ、これは呼びかけについてだ」と瞬時に悟った。
「今は○○とか声の大きい人がやってくれてるよね。やってる?」
「…最初の頃に少しやりました」
全然関係ない委員会の呼びかけを思い出した。私はどう答えるのが正解だったのだろう。
「前に△△先生にも同じこと言われたかもしれないけど、もっと口出していいんだよ?」
1年生の時のあの先生の名前を聞くと同時に世界がモノクロに見えた。一瞬息ができなかった。
私の悪い噂は職員室にまで広がっているんだ、と思うと震えが止まらなかった。
なんとかやりすごして席に着くと私は思いを巡らせた。
先生は副会長にも同じことを話したのか?
これからどうやって誤魔化そう。
これからどうやって名誉を取り戻そう。
これから、どうやって生きていけばいいのだろう。




