第39話 覚悟
夜12時過ぎだろうか。
俺は懐中電灯を強く握り、ドアの横の壁に背中を張り付けるようにしていた。
スイッチをスライドさせると、カチッ、と音がして、黄色い光が柔らかく、そして強く部屋に広がる。
「…はぁ……」
思わず深呼吸をする。
残り、調べていないのは浴室の部屋だけだ。
このまま怖いと思って先延ばしにしていてはいけない。
しかし、さすがにまだ浴室に入る勇気はない。
だから。
(クローゼットを開けるんだ。)
昼とは何が違うのか。何が入っているのか。
俺、いや、《《俺たち》》は真実を知らなければならない。
(……声は聞こえない。足音もない。)
無音。
これはこれで怖いかもしれない。
恐る恐るドアを開けた。
ひた……ひた……
自分の足音が気になる。
ひた……ひた……
浴室のドアの前に到着する。
(…………)
赤い光が漏れている。しかし、それはよく見なければ分からない程度のものだった。
俺は覚悟を決めて、ドアを開けた。
……幸い、そこには何もなかった。
鏡には俺の姿と、懐中電灯の光が輪を描いているだけ。
浴室のドアから赤い光は見えるものの、ちゃんと閉まっている。
俺はくるりと横を向き、クローゼットを見た。
こんな時だけ堂々として見えるのは気のせいだろうか。
(……大丈夫だ。)
きっと大丈夫。大丈夫。そう。
……でも、やっぱり怖い。
それでも。
それでも。
何とかこの気持ちを好奇心に上書きして、ばっ、とクローゼットを開けた。
………その中には、血まみれの少女が。
ビクン、と驚きで自分の体が跳ねるのが分かる。
その目は、こちらを見ているようで、見ていない。もっと遠くのものを見ているような感じだ。
しかし、それも瞬きをすると同時に消えてしまった。
「………え、」
その代わりに、そこには紙切れが1枚。
SNSのIDだろうか、サイトのUPLにも見える。
俺は恐る恐るそれを手に取った。
中性的ではっきりとした、好感の持てる字。
可愛らしいとも、読みやすいともいえる。
クローゼットをゆっくりと閉める。
カタン、と音がした。
またクローゼットを開ける。
何もなかった。
「…………」
速足で、でも音を立てずに素早く寝室に戻る。
懐中電灯と、紙切れを手に。
(……詳しいことは明日調べよう)
心臓が音を立てるのを聞きながらなんとか眠った。




