第38話 梶原さんの話②
「ちょっと飛ばして、夏休みの時です。私は英美ちゃんの勉強を教えてもらったりして少し余裕があって、外によく出ていました。その時、一回だけ英美ちゃんらしき人物を見たことがあるんです。」
俺はオムライスを食べる手を止めた。
「夏休みのとき……ですか。」
「はい。英美ちゃんより背の高い男子が一緒にいたという記憶があります。多分同い年か一つ、二つくらい年上だと思います。英美ちゃんも背が高くて、170あるかないかくらいだったので印象に残っています。」
「同い年くらいの男子ですか…」
「コンビニ、みたいな場所でアイスを手に持っていました。横を向いていたので見えにくかったのですが、…あんなに楽しそうな英美ちゃんは初めて見たと思います。まあ、私はそれから何も聞けてないのですが。」
「楽しそう……」
俺はオムライスを食べ終わり、パンケーキに手を付け始めた。
「……夏休み後も、英美ちゃんは勉強を頑張っていました。習熟度テストも、毎回80点以上で、、、。英美ちゃんは納得いっていないようでしたが、羨ましかったです。でも、ちょっと気になったのは、1年生の時担任だったって聞いた先生が、英美ちゃんに対して当たりが強かったことですね。産休から戻ってきてから、ほかの先生も英美ちゃんに対して良くない印象を持つようになった気がします。」
「………なるほど」
「…一回、高校に送る内申書の確認があったんです。資格とか、名前とか間違いがないか。英美ちゃんの顔がとても強張っていたのが気になって、ちらって見たんです。」
「………はい」
「………備考欄のようなところに、消極的な性格、って。」
俺は思わず声を上げた。
「えっ……英美さん、生徒会に入っていたし、勉強もできていて、様々なことに挑戦したと聞いたのですが…」
「はい。思わず私も驚いてしまって。こっそり見てたのにも関わらず、それ先生に言った方が良いよ!って言うほどでした。英美ちゃんはもちろんそうする、と
笑っていましたが、……目が、悲しみで覆われていたように見えました。
でも結局なんの意味もなく、変えてもらうことはできなかったそうです。」
「なんてひどい……」
そのときの状況を想像すると、いたたまれない気持ちになった。
「英美ちゃんは、当日の試験と面接でもっと頑張ればいい、と言ってさらに頑張っていました。私も心配したくらいです。」
「………」
「……もう知っていらっしゃるとは思いますが。英美ちゃん、第1志望に落ちたらしいです。合否発表の後も、笑って誤魔化していましたが、なんだかいつもと雰囲気が違っていました。……第2志望だった公立高校も、決して悪いわけじゃなかったはずなんですけどね。学校でも受けたのは10人いるかいないかくらいですし。
なのに、あんなことに…。……たとえ私がそのことを知っていても、何かできたかは分かりませんが、とても辛い出来事だったと思います。」
「………ありがとうございます。とても貴重なお話を聞くことができました。」
「いえ、こちらこそ。」
「本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございました。」
そう言うと、俺は伝票を手に立ち上がった。




