第35話 写真
数日後の夜7時、俺はスマホのカメラの機能を開いて、浴室とクローゼットの前に立っていた。
なんだか試したくなったのだ。
……入居条件の紙がおかしいなら、浴室と、クローゼットはどう映るのか。
ピントをクローゼットに合わせ、目をつむる。
そして、シャッターボタンを押した。
カシャッ
恐る恐る目を開ける。
「……………」
……そこには何も映っていなかった。ただ、壁があるだけ。
しかし、一番気になったのは。
………左のほうにある赤い手。
(……っ!)
ガタッ
浴室から何か音がする。
慌てて時間を確認するが、やはりまだ7時頃。
ぴちゃ……
俺は身構えて、シャッターボタンを押した。
カシャ
「………あ、、、」
撮った写真を見た。
…浴室の前に黒い人影が見える。
…そして、ジジジ、と左下から黒く、モザイクのように変わっていった。
(やばいやばいやばいやばい)
本能が離れろと警戒している。
それでも、足は動かない。スマホがタオルの上に落ちる音がする。割れなくてよかった。いや、俺は一体何を心配してるのか?タオルはどこから出てきたのか?
そんな違和感を考える余裕すらない。
好奇心だろうか。恐怖心だろうか。
俺はただ、浴室のほうをじっと見つめていた。
ぴちゃ……
(っ!!!!!)
来る!
俺はぎゅっと目を閉じた。
……ゆっくりと目を開ける。
…何も変わっていない。
(ああ良かった、幻聴かぁ。)
そう安心して、リビングに戻ろうと左に回った。
俺は体が固まった。
そこには、もとから鏡がついていた。
そこに映っていたのは、俺の顔。目を見開いて震えている。情けない。いやそれどころではない。
……………俺の隣に、黒目が印象的な白い服の血まみれの女が、目を細め、口角を異常に上げて笑って立っていた。
「……っあ…!!!!!!!!!!」
俺は2歩後ろに下がり、そこで意識を失った。
□
目が覚めると、夜9時半頃だった。
約2時間もここに倒れていたのか。
今は、鏡に何も映っていない。
………映っていない?
………俺の顔も?
(っ異常だ…!)
すぐさまその場を離れ、寝室に駆け込む。
(いつもはこんなことなかったのに…)
シャワーを先に浴びていてよかった。
(もう寝よう…)
俺は明日あの場所をどう取り扱うべきなのだろうか。




