第32話 鶴野さんの話①
大学が終わった俺は、鶴野さんという方の勤務先である会社に来ていた。
待ち合わせ場所に指定されていて、使われていない部屋で話を聞かせてくれるらしい。
通された部屋で、受付の女性が出してくれたお茶を飲みながらぼーっとしていると、「お待たせしてすみません!」と鶴野さんらしき人物が入ってきた。
「初めまして、鶴野翼と申します。氷室さん、ですよね?」
ボーイッシュなショートヘアの女性だ。
「はい。本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございます。」
「いえいえ!高原英美さんのお話で良いんですよね?」
「はい。鶴野さんが彼女と同じクラスになったのは1年生の時だったと伺っております。具体的なエピソードなどはございますでしょうか?」
「そうですね。一番印象に残っているのは、頭の良さです。
私はその時塾に通っていて、自分でも優秀だと自惚れていたんですが、高原さんとは全然比べ物にはならなかったです。計算も、英語も、発想力も全部負けていました。そのためか、当時表面は上手く取り繕っていても、本心では一緒にいると惨めな気分になって嫌でした。それに、お世辞とか作り笑いも全部見透かされるような、大人みたいな目をしていたのを覚えています。」
「………はい。」
「でも、彼女の優しさとか、一生懸命さとかはちゃんと分かっていたので、ただ単に合わなかったんだと思います。」
「………」
「あと、生徒会副会長選挙も印象に残っています。内容はほかの人と同じかそれ以上くらいだったんですが、なんだか、すごい、って思わせるようなオーラがあったんです。待ってるときも良い姿勢で、少しも動かないで。それで、『高原さんが一番すごいでしょ』みたいなことが思わず口から出ました。それくらい、すごかったんです。」
「そうなんですね………」
「彼女、結局副会長じゃなくて執行部になったんですがね。……すみません、私あんまり覚えてなくて、だからテーマとしては次が最後になるんですけど……『生徒会の理不尽』についてです。」
「全然大丈夫です。でも……生徒会の理不尽……?」




