第30話 記憶②
場面がまた変わる。
……ここは、あのマンションだ。
「……大丈夫」
震える声でこの子はつぶやき、ドアを開けた。
「ただいま!」
先ほどとは真逆の、明るい声。
「おかえり」
母親らしき人物だ。笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「その鞄重いでしょう?はやくこっちきて休んで!」
「…ありがとう!」
リビングが見える。
その母親は、くるっと振り向いた。
「今日、テスト返ってきたんでしょう?見せて」
「っ、うん……」
恐る恐る手渡す。
「…………へえ。」
その声で一気に部屋の温度が下がる。
「……86点って、どういうこと?」
「っあ、今回はいつもより難しかったらしいし、それにっ、私も体調良くなったばっかりで、まだっ…」
「そんなこと関係ない!」
突然の大声に、びくっと体が反応する。
「本当に頭いい子はいつだって完璧なのよ!あなたはどうして100点もとれないの!?せめて90点以上でも…!附属中学校に受かったあの子ならきっともっと上手くやれるのに!あの子のほうが頭いいわ。」
「っ、でも、お母さんは問題解いてないから分からないんだよ…。それに、たとえ86点でもいいほうでしょ…?」
「お母さんなんて他人行儀な呼び方はやめなさい!私は昔学校で1番だったし、ほぼ100点だった。間違えても98点とかだった。86点なんて最低。良いわけないでしょ?この点数が。低すぎる。このアホ!勉強方法が間違ってるの!」
「でもそれは小学校の話でしょ?それに私はちゃんと勉強したから英検だってとれたし、ほかの教科は95点以上、1年生の時は100点だって…」
「このっ、失礼な子!親に向かって何その態度?英検なんて気まぐれ。英語ができたって理系ができなきゃ意味がない!算数と理科が一番大切なの!」
「す、数学…じゃあ、あなたに英検準2級は取れるの…?」
その瞬間、母親の手が振り上げられ、腕を強く叩いた。
「…っ!」
痛い。痛い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い。
辛い。
この子の気持ちが伝わってくる。
「なんて失礼な子。こんな失礼な子この世界であなた一人だけよ!この化け物!悪魔が!」
(そんなひどい言葉を子供に……!)
さらに手が振り上げられる。
そこでまた場面が変わる。




