第26話 待ち合わせ①
待ち合わせ場所は駅前のカフェだった。
やがて送られた特徴と合う服装の女性が入ってきた。
すっと手を上げる。
「木下奈央さんですか?氷室と申します。本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございます。」
「あ、はい…こちらこそ。今あのマンションに住んでいて、英美ちゃんについて知りたい、ということでよろしかったでしょうか?」
20代くらいで、髪を肩まで伸ばしているこの女性は、英美さんと2年生の時同級生だったそうだ。大橋さんに教えてもらった。
「ではあの、さっそく本題に入ります。英美さんの本名と、一緒に過ごされて感じた印象や普段の様子について教えていただけますでしょうか。」
「はい。えっと、確かフルネームは高原英美だった気がします。背が高くて、最初は冷たそうだなって思ってたんですけど、接していくうちに優しいし、明るい子だと感じていました。親しい子とかはみんな英美とか英美ちゃんって呼んでいて、私は2年生の時同じクラスだったんですが、まあ同じ輪にいましたね。」
「そうなんですか……」
「でもやっぱり強く印象に残ってるのは、英美ちゃんの頭の良さでしたね。1年生の頃、文化祭で全校の前で英語の暗唱をしていて、すごいなぁって思っていました。発音が良かったので何言ってるかは分かりませんでしたが。それに、生徒会副会長選挙でも、最後に英語言っていた気がします。結局副会長は別の子が当選しましたが。私もその時の副会長の子に投票した覚えがあります。」
「すごいですね……」
俺はたまにメモをしながら耳を傾ける。
「2年生になったとき、英美ちゃんは既に生徒会に入っていました。副会長と同じクラスです。塾に入っていた子もたくさんいたのに、英美ちゃんはどの教科でも一番でした。数学では誰よりも早く解答を持って行って正解していましたし、英語ではその日配られた英単語を全て暗記していたりとかも。ほかの教科では目立つところがあまりなかったのですが、きっと一番だったと思います。
英美ちゃんは勉強が得意でしたが、副会長のほうはリレー選手に選ばれたりと運動のほうが得意でしたね。でも……」
「でも?」
「副会長のほうは人数の多い吹奏楽部に所属していましたし、勉強もクラスで上の方でした。それに比べて英美ちゃんが秀でていたのは勉強のほうでしたから、みんなも副会長のほうを支持している傾向がありましたし、先生も英美ちゃんより副会長のほうを贔屓している雰囲気でしたね。
英美ちゃんはいつも難しそうで分厚い本、特に外国の小説、を読んでいたと思います。嵐が丘とか、白鯨とか、老人と海とか。私にはさっぱりでしたね。今思うとすごいです。それに図書室にある外国の小説はほとんど1年生の時に読んでいたみたいで、2周目だと言っていたのを聞いたことがあります。」
「そんな難しい本を中学生で……!?」
「はい。それに英美ちゃんは一人を好むようでした。休憩時間も学校のワークとか、長期休みが近づいているときはその宿題とかをやっていましたね。いやもう、私たちは数人で集まってくだらない話で盛り上がっていたんですが。賢い判断ですね。私も時々勉強を教えてもらっていたのですが、だいたいはすぐ理解できるんです。でも……彼女の表情が暗くなり始めたのは夏休み後でした。」
「表情が暗くなった……?」




