第22話 氷室視点
俺は、大学の門の前で美月さんを待っていた。
(もうすぐ講義が始まるな……見逃した?それとも、風邪とか?)
腑に落ちないまま大学の中に戻る。
(新聞記事見つけたのになぁ、メッセージは既読ついているみたいだけど……)
その日、美月さんを見ることはなかった。
□
…2日後。
「おかしい……。この3日間、メッセージに既読が1回もつかない。」
情報収集のためにスマホは不可欠だ。
それに、たとえ体調が悪くても、メッセージを見るくらいはするだろう。
返信はできなくとも、既読は。
俺は、大学の後あのマンションに寄ることにした。
□
エレベーターで4階まで昇る。
一番奥の部屋に歩いていくうちに、俺は感じた。
……この部屋、危険だ。
例えば、このマンションのポストには、毎日のようにチラシが差し込まれる。
実際、他の数少ない住人たちのところにもあった。
しかし、404号室には、何もなかったのだ。
それに、なんだか以前より禍々しい雰囲気を感じる。
どうするべきか。
(いや……でも、友達が危険かもしれないなら)
警戒しながら、インターホンを押す。
ピンポーン
………………
物音ひとつしない。
(これはおかしい……)
一旦マンションを出て、管理人の泉さんに電話することにした。
「もしもし、泉です」
2コールで出た。
「404号室の伊波の友人の、氷室と申します。お忙しい中すみません……」
「あー、伊波さんの?へえ、どうしたの?」
「あの、俺の勘違いかもしれないのですが…伊波と連絡がつかないんです。」
「……………分かった、今そっちに行くから待ってて。」
電話を切る前、「失敗しちゃったかぁー」、と小声で言う声が聞こえた。
……5分後、泉さんが到着した。
ガチャ
泉さんが鍵を開ける。
「いやぁ、こういうことよくあるからね。合鍵作ってるんだよ」
「はあ……」
泉さんについて「お邪魔します」と中に入った瞬間、俺は言葉を失った。
…………部屋に、家具も、靴も、なかったからだ。
…………まるで、空室のように。
「嘘だろ…」
ひとつひとつ部屋を確認する。
本当に、何もない。
「あー、やっぱり捕まっちゃったか」
「………どういう意味ですか?」
「あっ、ごめんね。気にしなくていいよ」
「………」
「また募集出さなきゃなぁ~」
「あの」
「ん?」
「俺、この部屋に住んで良いですか?」
「え?本当に?」
「はい。」
俺は、美月さんの思いを継がなければならない。
そして、この部屋の、おかしい部分について解き明かす。
「良いよ!いつくらいの入居希望?」
「あ……ちょうど1週間後で…」
「分かった。じゃあその日、僕の部屋に来てね。説明するから」
「はい、ありがとうございます」
俺は家に戻り、荷造りをしながら、美月さんとのやりとりを頭の中でまとめていた。




