第17話 観察
しんと静まった夜、12時前。
私は部屋を調べるために、目を覚ましていた。
時計を見ると、12時ぴったり。
(大丈夫、何かおかしかったらすぐ戻る。)
私は深呼吸をして、寝室の扉を開けた。
「………………」
ひた、ひたと自分の足音が響く。
まずは、玄関。
そっと鍵を開けようとする。
(っ、開かない……)
鍵が開かないこと以外は特に異変がないようだ。
…つまり、この時間、私は逃げられない。
(やめよう、怖いことを考えるのは)
振り返らないように気を付けながら、次は、ほぼ物置となっている部屋。
懐中電灯の光がやけに明るく感じる。
一通り回ってみたが、いつもと変わらない。
ふぅ、と息をついて寝室に戻る。
ひた、ひたと自分の足音が響く。
寝室のドアを開け、ベッドに横になりすぐに目を閉じた。
今日は、何も見なかった。
私はほっと息をついた。
□
今日も、大学が終わった後、氷室と聞き取りに行く予定だ。
「美月さん!夜、どうでしたか…?」
「特に異変はなかったから、引き続き調べることにする。」
「そうですか……」
隣の一軒家のインターホンを押す。
出てきたのは、子供を抱えた若いお姉さん。
「はーい!」
「あっ、こんにちは。こんな時間にすみません。あちらのマンション、レジデンス白夜について知っていることはございますでしょうか?」
「えぇ、知っていることかぁ。あまり近づかない方がいいっていう噂は聞くけどね。ごめんね、あんまり役に立たない情報で。」
「いえ、お忙しい中お時間いただきありがとうございます。」
「でも、あのマンションについてなら、大橋さんがよく知ってるんじゃない?」
「大橋さん……?」
「30年くらい前からこの近くに住んでいる人。あそこの角を曲がって、ー。」
お姉さんは大橋さんという人の家までの行き方を教えてくれた。
「ありがとうございます。尋ねてみます。」
私たちは大橋さんの家に向かった。
ピンポーン
……………
「留守かな?」
「そうみたいですね。また尋ねてみましょうか。」
「………」
私たちは、カーテンの隙間から見える影に気付かなかった。
□
ぱっと目を開ける。
時計を見て、12時であることを確認し、寝室の扉を開けた。
(毎日1部屋って言ったけど、やっぱり2部屋くらいは見たい)
まずは、トイレ。
(まあ何かあるわけないし…って、え?)
ものすごく空気が重い。
なんだか、胸が締め付けられるような悲壮感。
他は変わらない。
(……早く出よう。)
涙が出てきそうな気分だった。
浴室には目を向けず、次はキッチン。
(クローゼットの出現が怖いから、後回しにしよう)
棚をひとつひとつ開けていると、最後の棚で私の手が止まった。
(……っ、嘘……)
………包丁が、赤く染まっていた。
…………………血?
手がガタガタと震える。
(気分が悪い、早く寝室に戻ろう。)
残るは、浴室、リビング、バルコニー、そして、寝室。
□
朝起きてすぐ包丁を確認しに行ったが、血はない、いたって普通の包丁。
しかしなんだか気分が悪くて、朝ご飯はカップラーメン。
昼食もお弁当を用意せずに、氷室と近くのカフェで外食した。




