第12話 入居
私、伊波美月は、レジデンス白夜の管理人さんに会いに来ていた。
ピンp……
(……ん?)
インターホンの音が、何かに遮断されたようだった。
するとすぐ管理人さん、泉さんが出てきた。
「君が伊波さん?どうぞ!」
「お邪魔します」
泉さんが言葉を続ける。
「ごめんね、インターホン壊れてるんだ」
「そうなんですか」
入っていく途中、私は耐えきれずに尋ねる。
「眼帯されているんですね」
「え?ああうん、かっこいいでしょ?」
泉さんは笑顔だったが、どこか切ないように感じた。
泉さんは私に部屋の説明をしてくれる。
「ここが浴室で、ここがキッチン。まあ知ってると思うけど、ここが寝室だよ。夜は絶対ここで寝てね。睡眠薬と電灯が必要な時は言って。貸し出せるから。この封筒に書類とかあるから、部屋で見てね。何か質問はある?」
「……はい、いくつか。まず、どうして12時から4時の間は寝室で寝なければならないのですか?別に起きていても、リビングにいても良いと思うのですが。」
「……ごめんね、その質問には答えられない。でも俺から言えるのは、入居条件を絶対に守ってほしいってこと。守っていたら安全だから。…多分」
なんだか不安な言葉が聞こえた。
「…分かりました。では次の質問をさせていただきます。
…見えてはいけないものって、なんですか?」
「…………」
泉さんの顔が険しくなる。
「…………その名前の通りだよ。見えてはいけないもの。」
これ以上突っ込んではいけないと感じた。
「そうなんですか。この質問で最後です。寝室を出て、その、見えてはいけないもの、と出会ってしまった人は、どうなるんですか?」
「………………………消えるんだよ。その住人の持ち物も、体も。」
「……っ。」
ここまで不穏なマンションはあるだろうか。
「ありがとうございます。」
そういって、私は泉さんの家を出た。
「ごめんね、俺何の役にも立たなくて。頑張って」
「はい。」
歩きながら私は考える。
叶恵ちゃんがおかしくなった原因も、あの部屋も、全部「見えてはいけないもの」が関係している。
やることもないので家で見てと言われた書類を見る。
部屋のつくりと、家賃の詳細などを流し見して、最後の紙を見て私は手と足を止めた。
「あっ…」
入居者募集の紙。
以前、私が叶恵ちゃんに見せてもらったものとは完全に違う。
番号の並び、部屋にはなかったはずの浴室のクローゼットというもの、そして。
……下にある、塗りつぶされた黒目の絵。
私は顔が真っ青になった。
そして、泉さんに電話をかける。
「はーい」
「っ、泉さん、これなんなんですか!入居条件の紙!」
「え?伊波さん?いや、いつもの普通に入れただけだけど、どうかした?」
「番号の順番は変ですし、浴室のクローゼットもなかったはずですし、それにっ、それに……最後の黒目は何なんですか!?」
「番号にクローゼット、黒目の絵…?」
泉さんが黙り込む。
「っ、もう1度行きますから!逃げないでくださいよ?」
そう言って、それほど離れていない泉さんの家にもう一度戻った。




