6話
僕は別れる前に機国で腕の良い生産者プレイヤーの情報を聞いた。
「うーん。何人かいるけどお兄さんのお眼鏡にかなうプレイヤーは彼かなぁ。だいたい機国の生産者プレイヤーは銃を作っているしね。」
代金を払い案内してもらった。機国の資格者組合のわりかし近くにそのプレイヤーの店はあった。その中に僕達は入る。
「いらっしゃい。なんだお前か。」
「お前かとは失礼な。今日は客を連れて来たんだよ。」
「見りゃわかるよ。何をお求めだい。」
僕はメリケンサックをひとつ外してこれ以上の物を頼む。後は光輪も見せる。
「おいおいまじかよ。これはすげぇな。なぁあんたこれは何処で手に入れた。これはユニークを除けば最高レベルだぞ。」
「ちょっとそれそんなに凄いの?。」
「あぁすげぇな。なんせ暗黒神の眷属の素材をたっぷり使ってある。そんな装備品はなかなかないぜ。」
「なんせ暗黒神の眷属と闘えるのはイベントだけだからな。」
「あんたイベントで活躍したのか?。あんたの外見ならすぐに話題になりそうだが。」
そう言って僕の装備品を凝視している。
僕はアゼスチャンに話しかけられる。
「ねぇお兄さん。僕に話していない事あるよね。」
僕はその笑顔が怖くなったから正直に話した。すると、
「この情報はやばいね。」
「僕は聞いた事を後悔しているよ。」
「ふざけんな。俺の居る場で話しやがって。聴こえただろうが。俺を巻き込むな。」
詳しく聞くと暗黒神の眷属と闘えるのはイベントだけというのがプレイヤー達の一般常識になっていて、それ以外で闘えるとなるとかなり荒れるらしい。暗黒神の眷属の素材はかなりレア度が高く、皆が欲しがっているとのこと。
「この情報は売れないね。売ったら最後その街にプレイヤーが集まるに決まってる。話しを聞くに兄弟子さんも封印されていて、わざと封印を解く奴等が現れる可能性がある。」
「そうだ。この情報はここだけの秘密にしよう。あんたもそれでいいか?。」
僕は頷く。罰ゲームだと思っていたのが実際はユニークシナリオで、その影響力が計り知れないほど高いとは。
それから僕は武器を返して貰い店主のカウルというプレイヤーとフレンド登録して店を出る。
「いやぁ。凄い情報聞いちゃたねぇ。僕びっくりしてしまったよ。」
「そうか。」
「んじゃあここいらで別れよう。じゃあね。」
そう言ってさっさと行ってしまった。というか暗黒神の眷属と闘える情報の代金払ってもらってない。まぁいいかフレンド登録しているから何時でも連絡取れるし。
それから僕は素材集めをがんばり試練の塔に登ったりして、たまにあの街に行き暗黒神の眷属を倒したりしながら過ごしていた。
カウルの店に行き暗黒神の眷属の素材を渡す。そしてカウルが試作の装備品を作る。その繰り返しで次の生産者向けのイベントに備える。
そんな事をしていたらついにレベル50に到達した。ステータスはこんな感じになっている。
レベル 50
体力 490
技力 20
膂力 20(100)
知力 20
運力 20
霊力 ーー
聖力 ーー
魔力 ーー
式力 19(15)
レベル50になった事で僕にも二つ名が与えられる。ちなみにアゼスチャンは【守銭奴】、カウルは【夢見る者】だ。二つ名を得たからといってステータスが上がったりする訳ではない。ただの飾りだ。
僕は資格者組合の1階の受付けで二つ名をもらう。二つ名は持っているアーツやスキル、スペシャルムーブと今までの行動などから決まる。僕はどうなる事やら。
貰った二つ名は【覇道を征く者】になった。僕にぴったりで凄い嬉しい。
そんな嬉しい事もあったりしたがイベント1週間前になり、なんと僕が教えた暗黒神の眷属と闘える街の情報が他のプレイヤーに知られてしまった。
最初はあの街を他のプレイヤーが自力で見つけたのだろうと思っていたが、カウルによるとアゼスチャンが高値で売ったらしい。
3人だけの秘密という話しはなんだったのか。僕はアゼスチャンに連絡をしたが無視されてしまった。僕とカウルは一旦アゼスチャンの事はおいておくことにしてイベントの準備を進めた。
それから僕はゲームからログアウトしてリアルに戻って来た。明日も大学があるし家の事もしないといけない。
最近になって両親が海外出張に行ってしまい一人暮らしになってしまった。日常生活でやる事が多く、僕は最近ゲームの時間が余り取れていない。それでも毎日欠かさずにログインしていた。
大学に行き授業を受ける。僕は小説を書くサークルに所属していた。女性の方が多いが皆仲がよかった。
僕が通う大学には大学内での有名人が居て、最近はその人の話題ばかりだった。所属しているサークルがいい成績を残したからだ。うちのサークルの一人がその人を主人公のモデルとしているぐらい有名だった。
その人はバスケのサークルに所属している女性で身長が200cmを遥かに超えていて、胸も尻もでっかくって腰はくびれがある非常に女性的な人だった。
京都弁で喋るリアルお嬢様であり才色兼備、文武両道で性格もいい非の打ち所がない人だった。大学の男性から告白されたり性の対象としてみられているが、本人は余り気にしていない様子で女性からの評価も高い人だった。
僕は関わった事はなく遠目から見るだけだった。確かに非常に女性的で下品な言い方をすればエロい人だった。でも僕はそれよりも彼女の身長が非常に羨ましかった。
僕は160cmしかなく、200cm以上の彼女の身長は僕には嫉妬の対象だった。僕はリアルでは背が低いからゲームでは背を高くしている。
今日の話題も勿論彼女で、大学一のイケメンが振られたといった話しから、知り合いの女性が彼女の胸がまた大きくなったという話しをしている。僕達男性陣はそういった話題には入らなかった。
サークルの活動を終えて家に帰る。その道中僕はゲームの事ばかり考えていて、前方で話題の彼女が絡まれている事に気が付かなかった。そこに僕は割って入る形で歩いてしまい、絡んでいた男性達に引き止められる。
「おいおい待てよお前。」
「なにやってんだてめぇ。」
「邪魔すんじゃねぇよ。ヒーロー気取りかよ。」
いろんな言葉を投げかけられ僕はそれを無視していたが服を掴まれたので、
「我に触れるな三下。」
とゲームの事を考えていたのでアバターの口調で喋ってしまった。
すると、
「ギャハハハは。なにそれ。」
「ヒーロー気取りじゃなくて中二病かよお前。」
「イヒヒヒ。やべぇ腹いてぇ。」
僕は笑われてしまった。僕自身も恥ずかしい思いをしてその場から立ち去る。絡んでいた男性達は笑い転げていて僕はこの場をさっさと去って行く。皆彼女の事なんか頭になくて、彼女がおおきにと言ってこの場から消えていた事に誰も気が付かなかった。
僕は家に帰り恥ずかしさの余りベッドで悶える。しばらくして落ち着いてから僕はゲームを始めた。ゲームをすれば大丈夫になると思って。
ゲームにログインすると僕はカウルの所に向かう。僕はそこでイベントの為にどの素材がいるかを聞く。
「おうケショウ。丁度いい所に来た。頼みたいことがあるんだ。」
「なんだカウルよ。」
「あの街の情報をあのクソ女が売ったせいで今は行けない。プレイヤーでごった返しだからな。だから試練の塔で今から言う素材を集めて来てくれ。」
「いいだろう。」
「助かる。暴走アンドロイドの素材を幾つか、それも最上級の素材だぞ。」
「暴走アンドロイドは何時何処で会えるかわからん。」
「だから今からイベント当日まで試練の塔に住み込む感じで、暴走アンドロイドが出現するまで粘るんだよ。」
「自分でやれ。」
「いやぁ、俺は色々と忙しいからな。ケショウはあの街に今行っても仕方ないだろ。だったら暇じゃん。」
「しかもイベントまでに少しでもレベルあげた方がいいと思うがなぁ。単純な創作品のランク付けだけで済まない事もあるかもしれない。」
「うーむ。あの街にはちょくちょく行こうと思っている。」
「ま、頼んだよ。あの街にいた鍛冶師よりもいい装備を作れる様になるからよ。」
そう言われたので僕は渋々やる事にした。
試練の塔に入る。僕はこれまでの探索で50階層まで来ていたのでそこにワープして50階層から始めていく。僕はアンドロイドを倒しながら色々な階層を行き来するのだが、暴走アンドロイドは見つからない。
まぁ暴走アンドロイドはワンダリングモンスターだし遭遇率もかなり低い。初日に会えたのはかなりの幸運だった。
この日は暴走アンドロイドに会うことなくゲームを終えてしまった。
それからイベント当日までがんばってみたが、暴走アンドロイドに出会う事はなかった。
「なぁケショウ。がんばっていた事は理解しているからそう落ち込むなよ。」
「だがしかし、目的を達成できなかった。」
「まぁいいよ。これまでに持ち込んで貰った暗黒神の眷属の素材でなんとかしてみるさ。これだけ貰っといて優勝できなかったら俺の実力不足ってだけだ。」
「わかった。優勝してみせろカウル。」
「おう。優勝景品であんたの装備品作ってやるぜ!。」
僕達はイベント会場に向かった。今回は霊国で行われるらしく僕は始めて行く。アマタツ殿の誕生の地であり《阿頼耶拳術》の発祥の地。大変興味深い。
今回のイベントは事前に集めて持ち込んだ素材で、制限時間内に装備品を作るというものだ。
その為に事前準備が大事で、どれだけいい素材を持ち込めるかが評価に影響する。といってもどれだけいい素材を集めようとも、生産者の腕が悪いと碌な物ができない。だから生産者の腕も結構重要になっている。
イベント会場は普段のイベントでは余り活躍の場が少ない生産者プレイヤーがいっぱい居る。暗黒神の眷属を討伐するイベントでも生産者プレイヤーは装備品の製作などで活躍するが、やはり直接的な戦闘よりもイベント終了後の方が活躍する。
だから今回の生産者プレイヤーの為のイベントにはカウル含めた者達は毎回参加している。
あの街の情報が出回る事で暗黒神の眷属の素材は希少度が下がるかと思いきや、あの1週間で一度しか襲撃して来なかったらしくまだ貴重品だ。
その為カウルは他のプレイヤーと比べてかなり有利だが、カウルの腕はあの街の鍛冶師には劣るのでどうなるかわからない。がんばって優勝して欲しいところだ。
霊国は古き日本を想わせる建築物が並ぶ国だった。だいたいの建物が木造でできており、木のいい匂いがそこら中からしていた。
「そういやぁケショウは霊国は始めてだったな。良い所だろ。実際プレイヤー人気は一番高いからな。」
「うむ。良きところよ。アマタツ殿の誕生の地であり《阿頼耶拳術》の発祥の地。他にもいろんな拳術がこの国にはあるのだろう。」
「ユニークといやぁ《剛柔拳》があるな。これは習得しているプレイヤーがかなり多くて汎用性が高い。」
「《龍虎拳》は今の所ユニーク拳術で最強といわれていて、習得しているプレイヤーは2人だけだ。でもこの2人はイベントでかなり活躍しているから、それなりに有名なユニークで対策もされているな。」
「我の拳術が最強よ。」
「いやぁどうかな。ケショウはユニーク拳術を習得している訳じゃないしどうだろ。」
「ケショウのオリジナルといえば聞こえはいいが、強いかはまた別問題だよ。」
「まぁ《阿頼耶拳術》はもしかしたら強いかも知れないけど、ケショウは習得していないからなぁ。」
「ぐぬぬぬぬ。」
「まぁ今回は諦めな。このイベントで戦闘が発生した事は無いからな。」
そうやってイベント会場で時間を潰していると、ついにイベントが開催される。僕はかなり興奮していた。なんせこのゲーム始めてのイベントだ。今までのイベントは出場できなかったから、僕の活躍の場がないとしても楽しみだった。
早速カウルは指定された場所に行き、持って来た素材を並べ始める。すると暗黒神の眷属の素材とわかる人達はどよめいていた。
僕はやはり優勝を確実なものとする為に暴走アンドロイドの素材が欲しかったが、今更無い物ねだりしていても何も起きない。僕はカウルの優勝を信じて待っている事とする。
制限時間は2日らしくその間なら何個作っても良いとの事。カウルは1つを確実に仕上げる様子だった。
その間に僕は周りからかなり見られていたが、全て無視していた。絡んで来る人もいたが、僕が余り反応しないとわかると離れて行った。
順調に進んでいたイベントだが突然会場内に緊張が走る。このイベントには各国のお偉方が見に来ていて、その場になんと暗黒神の眷属が攻めて来たのだ。
住民達は逃げ惑いプレイヤー達はこんな事今までなかったと叫び出す。会場は混乱していたが各国からお偉方の護衛として来ていた者達と、霊国の暗黒神の眷属討伐隊がいち早く動き出す。
それを見てプレイヤー達も落ち着いて状況を理解し始める。早い者達は既に交戦していた。僕はカウルの元に行き彼を抱えてその場から離れる。
カウルはレベルこそ150とトッププレイヤーだが、完全に生産者向きな為戦闘は余り得意ではない。僕はカウルを守りながら敵を殺して行く。カウルも援護してくれるが、僕一人の方が強かった。同じプレイヤーでも方向性によってここまで違うのかと思った。
僕は始めてのイベントがプレイヤー達にとって未知のものと知りますます楽しくなった。僕は気合いを入れてこの未知のイベントに挑んだ。
ケショウが《阿頼耶拳術》を習得する事はないです。ケショウはキャラクタークリエイトの時にスペシャルムーブを《剛拳》にしているので、そこである程度の方向性が決まってしまい力でどうにかする様なものばかり覚えます。ですが暴力でどうにかしようとする考え方していて、なおかつスペシャルムーブを技術系のを覚えていたら習得可能。暴力でどうにかしようとする為にさらなる高みを目指す考えはかなり重要で、それがないとアマタツにまず話しさえ聞いてもらえません。