表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第八章

【User_04が覚醒しました】


蓮のスマホに浮かんだその通知を見た瞬間、

校舎全体が、まるで低い唸り声を上げるように振動した。


「……今の、地鳴り?」


だが、誰も騒いでいない。

まるで、この“異常”は蓮と北条、選ばれた者たちだけに見えているようだった。


「始まったな……」北条が、低く呟いた。

「第四のユーザーが覚醒したってことは、これで“全ての鍵”がそろった」


「鍵?」


「完全な観測者になるための条件だよ。最低でも四人のリプレイヤー、記憶の共鳴、そして“収束点”。

すべてが揃えば……この世界は“選択”を迫られる」


その瞬間、蓮のスマホがまた点滅する。

画面が強制的に切り替わり、《LIVE FEED》と書かれたタブが開く。


映し出されたのは、見覚えのある風景――

歩道橋の上。

そしてそこに立っていたのは、雨宮澪だった。


「澪!?」


映像の中で、澪はスマホを手に、誰かに話しかけていた。

だが、音声はない。

その背後に、一人の影が立つ。


――それは女子生徒だった。


制服姿。長い黒髪。

どこか見覚えがある……いや、記憶の中で何度も見た。

椿玲奈。


「まさか……椿が“User_04”!?」


「違う」北条が低く言った。

「椿はもうこの世にいない。これは、記憶体だ。

だが彼女の意識は、アプリの中に残り、他の誰かに上書きされている」


その時、画面に表示が追加される。


【User_04:雨宮 澪】


蓮の心臓が止まった。


「……うそだ」


「現実だよ」

北条が言った。

「椿の記憶が、澪の中に“流入”したんだ。

蓮、お前がリプレイで未来を変えたあの日を境に、

彼女は《24H REPLAY》と深く繋がってしまった。

たった一度でも“選んだ”という事実が、連鎖を呼ぶんだよ」


映像の中で、澪が歩道橋の縁に手をかける。


「やめろ!!」


蓮は叫んだが、その声は画面の向こうには届かない。


「まだ間に合う」北条が言った。

「彼女に近づけ。接触すれば、記憶の同期が可能になる。

そうすれば、椿の意識から澪を引き離せるかもしれない」


蓮は駆け出した。

夕暮れの校舎を抜け、階段を下り、通学路を逆走するように――

ただ、澪のもとへ。


歩道橋が見えた。

その上で、澪が静かに佇んでいる。

スマホを見つめ、まるで誰かと会話しているように。


蓮が階段を駆け上がった瞬間、澪が振り返った。

その瞳には、涙と共に――“誰か別の意志”が宿っていた。


「蓮くん……あなたも、もう“過去”の人なのよ」


「違う!お前は雨宮澪だ!俺の知ってる、俺が守ってきた――」


「守って……?何を?私を?それとも“記憶”を?」


その時、澪のスマホが音を鳴らす。

《記憶同期を開始します》


蓮のスマホも同時に反応する。


【記憶同期を承認しますか?】

【YES/NO】


選ばされる、またしても。

蓮は歯を食いしばり、画面に触れた。


「俺は、お前を“今”のまま守る。記憶になんか負けさせない」


その瞬間、世界が、弾け飛んだ。


色彩が反転し、過去と現在が絡み合い、無数の“可能性”が脳に流れ込む。

椿の記憶、澪の痛み、北条の絶望、そして蓮自身の怒りと祈り――


全てが混ざり合い、ひとつの答えを求めて収束していく。


【記憶同期 完了】


そして、目の前に立っていたのは――


澪。


だが、その表情は、まるで初めて会った誰かのようだった。


「ねえ。あなたは誰?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ