第六章
DMの文面を何度読み返しても、意味が飲み込めなかった。
『次は彼女じゃない。君自身だよ、蓮くん』
(……どういうことだ?)
蓮は息を詰めながらスマホを握りしめた。
悪質ないたずらか? それとも、何かの脅迫か?
だが、このDMには明確な“裏”があると、直感が告げていた。
アプリ《24H REPLAY》。
自分が使った奇跡のツール。
だが、そのシステムにはまだ“知らない部分”が存在する。
その証拠に、送信者は明確に言ってきた――“本当の使い方”と。
放課後、蓮は人気の少ない屋上に向かった。
風が強く吹き抜け、シャツの裾がはためく。
周囲を見回しても誰もいない。けれど、なぜか背中が冷たい。
スマホを再び取り出し、《24H REPLAY》のアプリを開く。
画面には変わらぬ表示。
使用履歴:1回
リプレイ可能回数:0回
(これで終わり……だったはずだ)
そう思った瞬間、画面がちらつき、ノイズが走った。
そして、新たな表示が浮かぶ。
【セカンドセッション・承認待ち】
【User_01より招待:受け入れますか?】
蓮は固まった。
“User_01”。
これが、DMの送り主なのか――?
指が、画面の【YES】に触れそうになる。
だが、そのとき。
「やめた方がいいよ」
背後から、声がした。
驚いて振り返ると、そこに立っていたのは――北条圭介だった。
夕陽を背に受けた北条の表情は、いつもと違っていた。
冷たく、そしてどこか哀しげだ。
「お前……アプリのことを知ってるのか」
「知ってるさ。というより……俺も使ったことがある」
蓮の鼓動が速くなる。
「まさか……お前が“User_01”か?」
「それはどうかな」
北条は意味深に笑った。
「でも、ひとつだけ言っておく。あのアプリは、
選ばれた“保持者”同士が接触すると、
次の段階に進む仕組みになってる。
お前がそれを承認したら、後戻りはできなくなる」
「次の段階……? なんだよそれ」
「“記憶の共有”だよ。お前の中にある、これまでのループの記録が、他のユーザーと混線する」
蓮は思わず後ずさった。
「そんなこと、できるはずが――」
「できるんだよ。それが“本当の使い方”だ」
風が吹き、沈みかけた太陽が校舎を赤く染める。
蓮の中で、ひとつの確信が芽生える。
(澪を守るだけじゃ、終わらない。何かもっと深くて、厄介なものに、俺は触れてしまったんだ)
画面に表示される【YES/NO】の選択肢が、無言で迫ってくる。
蓮は、画面を見つめたまま拳を握りしめた。
(もし俺がこれを選べば、何が始まる? そして、誰を救える?)
その答えは、まだ誰にも分からなかった――。