7.
午後の授業は室内運動場を使い、実技訓練だそうです。
午前は座学で午後は実技と言うのが、わたし達の定番コースだと、ノエさんもダイヤさんも言っていました。
もちろん、私たちのためだけに運動場一面を利用できるはずもありません。人数の少ないわたし達は端の方に追いやられ、細々と使うのも定番なのだそうです。
他のチームさんが仰る『人数あたりの面積ではむしろわたし達の方が優遇されてる』というのはわかりますが、理解と納得は別物ですよね?
ノエさんにわたし達『ラウストーン』流のストレッチと、身体のウォームアップを兼ねた体操を教わります。
そう!ラウストーン!!
わたし達!ラウストーンです!!
みなさん『チーム』としか言葉に出さないものですから、名前のないチームなのだと思っていたのですが、わたし達!ラウストーンだったんです!!
和訳すると『宝石の原石』……。トレーナーさんの思いを感じます……。
わたし達がラウストーン体操をやっていると、ぼちぼちとトレーナーさんがやってきます。
わたし達のトレーナーさんは大変合理的な方で、実技訓練の時は体操が終わる頃に、毎回計ったようにやってくるのだそうです。
午後に実技を入れるのもそれが理由で、昼休みを(トレーナーさんが)少しでも長く取るために編み出した、テクニックであったと聞かされた時は、酷く失望したのを今もはっきりと覚えています。
体操が終わると持久走。走る距離はトレーナーさんのきまぐれです。今日は屋内運動場のトラックコースをぐるぐると周回しますが、時折気まぐれにトレーナーさんが挙げる旗がポイントです。
旗が上がってない時は、スローペースで前者のペースに合わせ、追い抜きはせず引き離されず、一定の距離を保つこと。
赤旗が上がると一気に加速し、前者を追い越すこと。前者は追い越されないこと。
運動場のトラックは、当たり前かもしれませんが、実際のレース場に似た曲がり方なのそうです。なので、トラック外を使うのは反則です。
赤旗が下がるタイミングも、これまたトレーナーさんの気まぐれ。どのタイミングで追い抜き走が終わるのかわからないところがスリリングですよね。
走っていると時折、トレーナーさんがわたし達のことを大声で呼びます。個人で呼ぶ場合もあるし、集団で呼ぶ場合もあります。
初日のわたしは、何度も呼ばれ、呼ばれたところからトレーナーさんのところまでのダッシュをさせられました。
何故呼び出すのか?それは指導をするためです。走りのフォームや呼吸の仕方、視線の位置や前者のどこを見るべきか。追い抜くコツや負け確レースの心の持ち用まで、事細かに指導されます。
さすがわたしの才能を一瞬で見抜きスカウトしたトレーナーさんです。きちんと見るべきところは見ているものだと感心しましたが……そんなことより……。
わたしはこの持久走で、一度も前者を抜くことは出来ませんでした……。それが本当にショックで、一日それを気に病んでいました。わたしより体格の小さい、スプリンタータイプを自称していたパープルちゃんにすら、全く届きません……。
ノエさん……化物って、これのことでしょうか……?たしかにこれは、心に来ますね……。
トレーナーさんから終了合図を受け、持久走は終了。各自水分補給やクーリングのため休憩。
死にそうな顔で大の字で倒れるわたしに、みんな駆け寄ってきます。みなさん汗だくですが、笑って話せる余裕があるのに……。
「ば……ばけ…も、の……」
「あのなぁ……この程度は慣れの問題だ。化物でもなんでもねぇよ。ここに来てるウマ娘だったら1週間もやれば誰でもコツを掴む」
本当にショックだったんだ。わたしは今まで何をしていたんだろう……。
トレーナーさんにスカウトされて、町の人達に煽てられ、わたしは、わたしは……。
違う、これはショックじゃない。ただただ、恥ずかしかったんです。
田舎町の産んだ軌跡のスターでも、天才ウマ娘でもなんでもない!日本全国のトレセン学園に通うウマ娘たちの中でもおそらく最低レベルの、そんなダメダメウマ娘がわたしです……。
わたしは天を仰ぎ、大声で泣いていました。ショックで、恥ずかしくて、惨めで……。お父さん、お母さん、故郷のみんな……わたしは、井の中の蛙でした。