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5.

『ここは化物共の巣』


目が覚めてからも、その言葉が頭に残っていました。

当然、名門トレセン学園の中でも更に抜きん出る、世界有数と言っても過言ではないほどの学園なのだから、甘い考えなんて持ってはいない。

しかしここで今日まで過ごしてきたノエさんが、それを本気のトーンで言うのだから、より一層心を引き締めろってことなのだろう。


わたしは化物なんかに負けないぞ!

そう言い聞かせ、自分の両頬をパチンっ!と叩くとベッドから跳ね起き、部屋を出て洗面台へ。

そこは既に混雑しているものの、まだ余裕のある時間なので、どの娘も一様に寝ぼけた顔でゆったり顔を洗い、歯を磨いていた。


「ほえ、いはいんおはおー」


「おはようございます、ノエさん」


「お、ノエちゃんはよーす。相変わらず今日もキャワイイねぇ!そんでそっちのが転入の……」


「おはようございます、ええと……ごめんなさい、お名前……」


「ああ、アタイはイエローダイヤ。同じチームだよ。ヨロシクね」


「タカイサミです。こちらこそよろしくお願いします」


握手をすると、そっと耳打ちされた。


「ノエちゃんイビキ酷くて寝てられなくない?いつでも部屋変わってあげるからね?」


「オマエなぁ……グーで殴るぞ」


「あっれぇ?ノエちゃん聞こえちゃったぁ???

あと、こっちの大人しいのがアタイと同室のパープルスペード」


「おなじチーム……パープルだよ。よろしく……」


「ノエちゃんから聞いたと思うけど、アタイたちのチームは今年の新入生だけのチームなんだ。全員タメだから堅苦しいのは無しね。勝負ではライバルでも、それ以外では仲良くやってこ?」


「はい!これからお世話になります!」


私よりも握りこぶし一つか二つ分くらい背が高そうな長身に、鍛え抜かれた痩躯、芦毛ストレートロングヘアのモデル系美女がイエローダイヤさん。何故芦毛なのに『イエロー』ダイヤなのか?今でも謎なのですが、『美女に謎は付き物だから』なのだそうです。


ノエさんより更に小柄な、チームで一番のちびっ子。真っ黒ツヤツヤの青毛を顎のラインでバッサリとカットしたおかっぱヘアが、まるで日本人形を思わせる可愛らしさのパープルスペードさん。こちらも何故青毛なのにパープル??となるのですが、これも『びじょになぞはつきものだから』なのだそうです。


「アタイ達のチームはイサミちゃんを入れて6……いや5人でチーム全員集合だからさ。イサミちゃんがこっち来るのをずーっと待ってたんだよ。

もう1人いるんだけど、あの脳筋バカはもう今頃校庭を走ってると思う。後で紹介するよ」


「こんな早朝から!?」


「くろちゃんはねー……あさのじしゅれんで、いちにちのちからつかいはたしちゃうタイプ……せんせえにまいにちおこられる」


「都会は恐ろしいところですね……」


彼女の言葉に倣うなら、田舎者のわたしをすんなり受け入れようとしてくれる、この人懐こい彼女たちも、皆、化物……。



トレセン学園の授業は朝9時始業です。それまでに登校し学食で朝食を済ませ、授業に望みます。

授業は概ねチーム単位で行われますが、チームの形も様々。新入生だけを少数集めたわたし達のようなチームは珍しく、多くは上級生との混合で、チーム自体ももっと大所帯なのだとか。

どんなチームを作るかは、各々のトレーナーさんの腹一つですが、距離適性・得意戦略・レース予定が被らないようにバラけさせるのがセオリーだと言うのは、競走バを引退した後に知りました。

わたし達のチームはトレーナーさんが新入生の中から見つけ出した無垢な原石を磨き上げるのが目的なのだそうで、故にチーム名も『ラウストーン』。

わたしは幸運なことにその原石だってことなのでしょう。


わたしたちのチームは午前は座学が割り振られることが多いらしく、今日は起きてるノエさん。真面目に授業を受けてるフリして、教科書に落書きをしているだけのパープルさん。意外(と言っては失礼かも知れない)なほど几帳面にノートを取るダイヤさん。そしてわたしの隣で、何故か直立不動で目を開けたまま寝ているクローバーアイゼン(推定)さん。

それらをまるで一顧だにせず、淡々と座学の講義をするトレーナーさん。

今朝の不退転の決意が揺らぐほど、個性的な怪物共に、既に囲まれてしまっていたのでした。

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