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4.

「おまえ、タカイサミ?だったよな」


授業が終わるなり突然話しかけてきたのは、同じチームのウマ娘でした。


「こっち、こっちだよ!オレはハートノエースってんだ」


さっき講義を爆睡していた子?


「おいおい、そんな警戒すんなよ〜。仲良くやろうぜぇ〜」


大きいキラッキラな瞳に小ぶりだが形の整った鼻筋。高めの位置に結わえた大きな赤いリボンがよく映える、黒鹿毛の大きく長いポニーテール。やや大柄なわたしから見たらかなり小柄な背丈に、アイドル顔負けの愛らしい顔と声。そして前髪の大きなハート柄にも見える流星。

彼女の見た目は、ハートを冠するその名にピッタリなのだが……しかしそれにはそぐわない、あまり育ちが良くなさそうな言動が、なんともチグハグで、少し笑ってしまいそうになる。


「はじめまして、タカイサミです。精一杯走りますので、よろしくお願いします」


「おーよ、イサミン。わぁーってるってよぉ!大将におまえの世話頼まれてんだわ。寮も同室だ。

午後の授業はこのままフケて良いって言われてんだぁ。学園と寮を案内してやんよ」


「(イサミン?大将??)そうでしたか。助かります。なにぶん田舎者ですから、ご迷惑をおかけするかも知れませんが、よろしくお願いしますね、ハートノエースさん」


「畏まった呼び方やめてくれよぅ!オレのことはノエで良いからよぉ。おまえもイサミンでいいだろ?」


育ちが悪いその言葉が、こんな天使のような笑顔から甘い声色で発せられている事実に驚きを感じつつ、これが都会か……なんて考えました。


学園内の施設はどれも最新鋭の素晴らしいもの『なのだそう』です。

と言うのも砂浜を掛けていただけのわたしには、それらの凄さが全くわからなかったのです。

しかし、食堂の充実ぶりには正直驚きました。

故郷の隣街にある、大きなショッピングセンターにあったフードコートよりも広いフロアに、わたし達ウマ娘の消費カロリーや必要な栄養素を計算されたメニューが、いつでも無料で食べ放題なんです!

ランチはノエさん(ノエさんは同い年ですが、学園では先輩に当たるので『さん付け』は譲れません)とご一緒しましたが、レストラン顔負けの美味しさ!

トレセン学園は本当にすごいところです。


「最後にここ、オレたちの部屋な。イサミンの荷物は今朝届いてたからよぉ、とりあえずベットに積んどいてやったぜ。

そんでこのカーテン。こっからこっちがオレの部屋、そっちがイサミンの部屋ってこと。

もうわかってると思うけど、オレ大雑把な性格だからさぁ、ちょいちょい国境超えるかもしんねーけど、まあ大目に見てくれ!」


ちらっと見えたノエさんの部屋は、ご自身が言うような大雑把さは全く無く、年相応の女の子らしい可愛らしさやキラキラに溢れていた。

見た目と言動のギャップ。大雑把と自称するワリにキラキラの部屋。そう言えばランチの時も、すごくキレイに食事をしていたっけ。

何が本当の彼女なのか……やはり都会は怖いところです。


ノエさんに荷解きを手伝ってもらいながら、(とは言えわたしは私物が少ないので、手伝って頂くほどでも無かったですが)いろいろお話をしました。地元のこと、家族のこと、学園のこと、そしてもちろん、わたし達が目指すレース……トゥインクルシリーズのこと。

ノエさんはあまりレースの話はしたがりませんでした。憧れのウマ娘の話などは目を輝かせてお話されますが、自分の競争の話は露骨に避けられてしまいます。

ノエさんは聞き上手で、あのキラキラとした可愛らしい瞳で見つめながら相槌を打ってくれるので、もしかしたら、わたしが一方的に話ていただけだったかも知れません。



消灯時間を過ぎ、慣れない環境で眠れないでいると、


「なあ、イサミン。もう寝たか?」


「寝てるかも知れねえが、……おまえ、良いヤツだからさ。忠告ってほどじゃあねぇが、数カ月先輩のオレが一つだけ教えとく」


「心を強く持てよ。じゃないと脚が折れる前に、そっちが折れちまう。ここは夢や憧れの学園なんかじゃない」


「化物共の巣だよ」


「そんだけ、じゃおやすみ」

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