2.
わたしの生まれ育った町は、何も無い。今、必死に思い出しても本当に何も無い。そんな海沿いの田舎町です。
でも、美しい海と広い砂浜と、自然は本当に豊かな町でした。
朝起きると、浜辺を日がな一日走り回る。友達と鬼ごっこをしたり、姉妹と掛けっこをする。
お腹が減ったら帰って喚き、両親を困らせる。
思い返せば、随分と傍若無人な子だったようにも思えます。
毎日走るうちに、誰もわたしの足の速さに追いつけないことが、なんとなくわかるようになった頃、都会からトレーナーさんがわたしの走りを観に来られました。わたしの脚力に気づいた両親が呼んだんだそうです。
両親がどれほど偉い人に掛け合ってくれたのかわかりませんでしたが、トレーナーさんの前で、今までのような遊びの雰囲気ではない『走り』をしました。
一番驚いていたのは、そのトレーナーさんです。トレーナーさんは『走り』終えたわたしの肩を掴み、
「キミは逸材だ!中央に来て、私のところで鍛えてあげよう!」
と仰いました。
まだ幼かった私は、その意味がよくわからなかったのですが、涙を流して喜ぶ両親を見て、わたしはとんでもないことをやってのけたのでは?と心が舞い上がったのを、今でも覚えています。
こうして私は、競争ウマ娘専門の育成機関の、その中でも最高峰と謳われる『中央校』への転入が決まりました。
出発前夜はまるで町のお祭りのように大騒ぎで、みんな笑顔でした。
「こんな田舎町から大スターが産まれるなんて!」
幼かったわたしは、その言葉の持つ重圧の意味すら理解していなかった、本当に、本当に、ただの田舎のクソガキだったのだと、今は思います。
町中の人に背を押され、誇らしい気持ちで、東京へ旅立ちました。




