表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編

「見て、あの忌々しい瞳」

「まるでバケモノよ」

「あーあ、空気が汚れていくわ」


社交界での私への罵倒の声。

幼い頃からずっとこうだ。

この国で、忌み嫌われている魔力持ち。

本来なら処刑されるはずの私が、今こうして生きているのは、私に聖力があったからだ。

稀代の魔力持ちと聖力持ち。

魔力持ちよりも、聖力持ちのほうが稀少だった為、私はこうして生かされている。

でも、周りからの冷たい視線や言葉からは誰も守ってくれない。


「リーリエ、今宵お前との婚約破棄破棄する」


そう、王太子である婚約者すらも。


「聖女の称号は新しい婚約者となるエリーナに譲れ」


王太子の横にはピンクブロンドの女性が立っている。

確か、王太子の愛人と噂の。

彼女からは聖力を感じない。

代わりに彼女のしているペンダントから聖力を感じる。

つまり、この人は聖女ではない。

偽りの聖女。

気がいてないのか。


「お前は聖女を偽り、魔女の分際で生きながらえた。それは大罪だ。連れて行け」


私は衛兵に連れて行かれた。

抵抗する気なんてなかった。

私の居場所はどこにもない。


◇◆◇


私は生まれた時から魔力を持っていた。

魔力持ちの証の真っ赤な瞳がその証拠だった。

しかし、私の髪は鮮やかな金色だった。

それは聖力の持ち主の証。

両親は私を教会に能力鑑定に預け、姿を消した。

私は捨てられたんだ。


「こんな魔女を教会で引き取れと言うのか!?」

「聖力持ちでも、魔女はいらないんだが……」


私は渋々教会に引き取られた。

誰も味方してくれない。

ご飯を抜かれるのは日常茶飯事。

十歳になったある日、国から使者が来た。

その人は私を王城へ連れて行った。

私は稀少な聖力の持ち主だった為、王太子と婚約することになった。

王太子は私の目を見た瞬間、眉をひそめた。


「何だこの女は」

「殿下、聖女様ですよ」

「これが聖女だと?俺にこんな魔女と婚約しろと言うのか?」

「た、確かに魔女ではございますが、聖女でもあります。聖女は王太子と婚約するのがしきたりでございます」

「……」


私はそんな会話が繰り広げられているのは気にせず、王太子の容姿に見惚れていた。

綺麗な顔の人。

こんな人と婚約できるなんて幸せだ。

しかし、顔合わせ以来、王太子は私の前に現れることはなかった。

私は王城の近くの大神殿に住むことになった。

衣食住はもちろん備わってる。

でも、みんなの私を見る目は冷たく、歓迎されている気はしなかった。


「リーリエ、来い」


私は名前を呼ばれ、神殿の地下に向かった。

そこで私の背中に魔法陣のようなものを描かれた。


「それはあなたを守ってくれる魔法ですよ」


神官さんは笑って言った。

けど、私はその笑顔に違和感を覚えた。

でも、私のことを思ってくれている人がいるのだと嬉しかった。

しばらくしてから、私は国民の治療を任されるようになった。

初めて患者さんの様子を見るから緊張するな。

入って来た女性の手には幼い子供がいた。

呼吸は荒く、苦しそうだ。

私は子供の様子を見てから、女性に視線を移した。


「ひぃ!」


女性は私の瞳を見て、子供を抱く手を強くした。


「ま、魔女がいる!」


女性はすぐに診察室から出て行こうとした。

私は急いでそれを止めた。


「何よ!この子を治すとでも?この子に呪いをかけるつもりでしょう!」


私はまっすぐな瞳で女性を見た。

私の言いたいことを察したのか、女性は言った。


「……よろしく頼むわ……」


渋々子供を私に手渡した。

軽い……。

平民の子はどうやらご飯をあまり食べれていないようだ。

何となく分かる。

聖力を使うと、すぐに子供の顔色は良くなった。

しかし、すぐに女性は子供を奪い取るようにして部屋を出て行った。

お礼も言わずに。

……呪いなんてとんでもない。

殺されるはずの私がこうして生きていられるのも聖力のおかげ。

この力で人を救いたい。

私はその後も、ずっとずっと怖がられたり、罵られたりしながら人を助けた。


◇◆◇


そう思っていたのはいつまでだったかな。

私が希望を失ったのはいつからだったかな。

私は乱暴に牢に入れられた後、膝を抱えて思っていた。

手には魔力封じの枷がはめられている。

ああ、そうか。

私は元々、人間に期待なんてしてなかったんだ。

いつか来ると分かっていた。

でも、それを甘く見ている自分もいた。

明日私は処刑される。

もう、生かされないだろう。

当たり前だ。

私は元々こうなる運命だったんだ。


◇◆◇


「出ろ」


私を乱暴に牢に入れた男が私に言った。

彼の怪我も何度も治した。

でも、私に向けられているのは感謝の目じゃない。

軽蔑と怒り、そして殺意を含んだ目。


「お前はこれから首をはねられる。覚悟はできてるな?」

「……」

「何も言わないか。覚悟がどうであれ、お前は今日死ぬんだ。ざまあみろ」


感謝すらしないのか。

私のしてきたことは全て無駄だったのか。

私は衛兵に連れられて、王城から出た。

不思議なほど誰もいない。


「お前は大広間で公衆の面前で処刑される」


そうか。

誰か一人は私を憐んでくれる人はいるよね。

大丈夫だよね?

みんな私が助けたし、きっと、一人は私の死を嘆いてくれるはずだ。

そんな思いは悲しくも外れた。

私の頭に何かが当たった。


「いっ」


頭から血が出た。

地面に落ちた何かは石だった。


「……っ」


一人が石を投げたからか、たくさんの人が私に向かって石を投げた。


「この魔女が!」

「死ね!」

「この世からいなくなれ!」


たくさん聞こえてくる暴言は何度も何度も聞いた言葉。

でも、誰も直接言ってこなかった言葉。

おかしいな。

今まで傷ついたことなんてなかったのに、なぜだろう。

胸が苦しい。


「魔女リーリエ」


王太子の声が聞こえて振り向いた。

そこには案の定王太子とエリーナがいた。


「今から死ぬお前に情けをやろう。最後に言いたいことを言え。……まぁ、今まで一度も言葉を発したことのないお前が何か言うとは到底思えんがな」

「……さい」

「……?」

「うるさいうるさいうるさい!!」


私がそう叫ぶと王太子やエリーナは目を見開いて私を見た。

恐らく様子を見ている人たちもそうだろう。


「魔女が喋った……」

「呪われるんじゃない……?」


そんなことを言う民衆を私は睨みつけた。

彼らは少し怯んだ。

だから喋らなかったんだ。

そんなのも知らないくせに。


「魔女魔女魔女ってうるさい!私が魔力持ちだからって何かした!?してないでしょ!?何もしてないのに罪人のように私を扱う!」


――あの魔女はどうして処刑されないのだろうか。

――具体的な罪がないからじゃない?

――絶対何かしてるんだろうけどな。


「みんなの命を救ったのは誰?怪我を治したのは誰?私だよね?誰も殺してないでしょ?なのに私がまるで誰が呪ったとか、殺したとか、くだらない噂が流れる!誰も否定しない!」


――あの魔女、人を呪ってるんじゃない?

――えー、怖ーい。

――ちょっと、やめときなさいよ。あんたたちまで呪われるわよ?


「生まれ持ったものを否定するのってどうなの!?私だって普通の子に生まれたかった!普通の子に生まれて、普通に幸せに生きていたかった!」


普通が良かった。

普通に家族と生きていたかった。

もし私が普通の子として生まれていたら。

そんなことを考えなかった日はない。

親にまで捨てられて、魔女だ魔女だと罵られ、存在を否定される。

幸せに家族と笑い合っている自分を想像してる時は少し気が楽になった。

でも、現実に目を向けるとこうだ。


「私だって……。みんなと普通に暮らしたかったのに……」

「……言いたいことはそれだけか?」


王太子が聞いた。

私はうなずいた。

私が処刑されようが、誰も止めない。


「待って!!」


女性の声が聞こえて私達は振り向いた。

そこには見知らぬ女性と男性が息を切らして立っていた。

誰だろう。


「この国にある、魔力持ちを殺すしきたりは廃止すべきです」


まさか……。

私を庇ってくれてるの……?

私と女性は目が合った。

彼女は優しく私に微笑みかけた。


「……」

「殿下はご存知ですか?魔力持ちを殺していくたびに、魔物が活性化していることを」

「ああ、魔女の呪いの話か」

「ご存知でしたか。では、なぜ魔力持ちと聖力持ちは女性だけなのか知っていますか?」

「……それは、王家の血を絶やさないためか?」


この国では男児が王位を継ぐのが決まりだ。

男児は妃を娶り、男児を作り、国を継がせる。

勇者と謳われた初代国王の能力を絶やさないためだと聞くが、そもそもそんな能力はとうの昔に朽ち果てているだろう。


「ええ。では、魔女は何のために生まれるのでしょうか」

「魔女は生まれること自体が罪だ」


そう言うよね。

知ってた。

女性はその言葉を聞いて不敵に笑った。


「それが人間の世界だけの話だとしたら?」

「何?」

「この世界には異空間にある魔界というものがあります。昔はそこへ魔女と呼ばれる子供を捧げていたらしいです。しかし、そこへ魔女の子を捧げなくなってからは魔物が急激に人間に対して好戦的になりました」

「だから何だ?」

「それを踏まえて、私達は魔界へ赴きました」

「なっ!」


その場にいた全員が驚いただろう。

魔界への干渉は全ての国共通の禁忌だ。

魔界へ渡った者は魔族に食われ、戻ってくることはないと言われている。

この人達は無事に戻って来たと言うの?


「そして私達は魔王に会った。魔王はやつれていました。遥か昔の代の魔王の時代から伴侶となる魔力持ちが長年現れないと言うらしいです。伴侶が来なくなった年は、魔力持ちの処刑制度が生まれた年でした。つまり、魔物達が魔力持ちを処刑した後に活性化するのは、魔王のことを思った魔物がその様子を見て、怒っているからです」

「魔物に感情があるとでも?」


この王太子はどこまで非情なんだろう。

魔物にも感情くらいあるはず。

それをないことにするなんてとんでもない。


「ありますよ。だってほら」


女性が指差した方向には魔物がいた。

民衆は悲鳴をあげてそこから少し離れた。

魔物は襲ってくる気配がない。


「彼らは魔王を慕っている。だから、苦しむ魔王は見たくなかったのでしょうね」

「そのとおりだ」


横から低く冷たい声が聞こえて、私は横を見た。

そこには私と同じ鮮やかな赤い瞳と、黒髪を持つ男がいた。

彼は私を見て微笑んだ。


「迎えに来たぞ。我が花嫁よ」

「何が花嫁だ。そやつは聖力を持っている。魔物にとって聖力は天敵。いつ殺されるか分からんぞ」

「何だ貴様、知らんのか?魔力と聖力を両方持つ者は、神の生まれ変わりと言われていることを。約五千年前にこの世に君臨した女神は、赤色の瞳をしていたらしいぞ」

「まさか……」

「そうだ。この者は女神の生まれ変わりなのだ」

みなさんこんにちは春咲菜花です!新連載!と言っても前編と後編で終わるんですけどね(笑)え?何で「死にたいあなたに言葉の花束を」を書いてないかって?お察しの通りスランプですよ(笑)現実逃避のために「魔女と聖女の少女」を書きました(笑)頑張って「死にたいあなたに言葉の花束を」を書くので待っててください!後編も頑張るので!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ