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9.不穏

「ーーで、何であんただけが追ってくるのよぉっっ!!!?」


「ご、ごめんね、ほっとけなくて……っ」


 人のいない方いない方へと一目散に駆けて行く赤髪の女子生徒を、必死に追いかけるソフィア。


 そんな2人は、いつの間にか裏庭まで来ていた。


 泣きながらの全力疾走もそろそろ限界であるのか、泣いているのか怒っているのかわからないような顔。


 そんな顔を真っ赤にして、肩で息をしながら目を吊り上げる赤髪の女子生徒に、ソフィアは眉尻を下げた。


「ほんとうざい!! ホント何なわけ!? あんたのことが嫌いだってわからない!? さっさと私の前からいなくなりなさいよ!!!」


「う、うん、わかってる、わかってはいるんだけど、私たち……ううん、私にも良くない点があったと思うし、あなたが感じたあなたの感情にどうこう言うつもりはないの……っ!!」


「じゃぁ一体何なのよ!!! ざまぁみろって笑いにでも来たわけ!!?」


 既に感情のコントロールができなくなっているのか、怒りながらボロボロと涙を溢す赤髪の女子生徒に、ソフィアは荒れた息のままに口を開く。


「ごめんなさい、でも、多分あなたを傷つけてしまったと思ったから……っ!!」


「そのいい子ぶりっ子が気に触るのよ!!!!」


 荒ぶる感情のままにドンと力任せにソフィアを突き飛ばした赤髪の女子生徒は、ふらりと尻餅をついたソフィアに一瞬しまったと顔色を変えるも、その顔をバッと横へと逸らして唇を噛んだ。


「さっさとどっかに行きなさいよ!! 私はあんたと話すことなんて何もないんだから!!!!!」


 ふんと口をへの字に曲げながらも、その赤い瞳から零れ落ちる涙は止まらない。そんな赤髪の女子生徒を見上げて立ち上がったソフィアは、そっと口を開く。


「弟が私を心配するあまり言い過ぎてしまってごめんなさい……っ。歯に衣着せぬというか、本音ダダ漏れというか、周りを気にしない子だから……っ」


「いや全然フォローになってないんだけど!? 全く何なのよ!! あんたたち姉弟は!!」


 キィーっ!!! と目を吊り上げる赤髪の女子生徒に、ソフィアは申し訳なさそうに眉尻を下げる。


「弟に頼り切ってしまって、あなたに言われても仕方ない面も多かったと思うから反省してる」


「………………………………」


 ついにはそっぽを向いたままに返事をしなくなった赤髪の女子生徒に構わず、ソフィアはそっと続ける。


「私は自分の意見をうまく表現することが苦手だから、自分の意見をどんな時もはっきりと言えるあなたや弟のことが素敵だと思うし羨ましい。友達を作るのも上手だし、興味を持つことが皆んな一緒である必要もないと思う。色んなことに気づけるのはアンテナを広く張ってるってことだし、先導して空気を読むのも作るのも勇気がいることで、私にはできないことだから本当にすごいなって」


「……………………っ……あ、あんた何が言いたいのよ!?」


 馬鹿にしてるの!? と、キッと涙の跡が残る顔でソフィアを睨みつける赤髪の女子生徒に、ソフィアは少し困ったように微笑んだ。


「ーーさっき私が怪我をしてないかって心配してくれたでしょう? あなたはそんな優しくて素敵なところを持ってる女の子だって、あなた自身に思い出して欲しくてーー」


「はっ、はぁっっ!!?」


 先ほどまでとは別の意味で、真っ赤にした顔でパクパクと二の句が告げない赤髪の女の子に、ソフィアは一切の邪気がない笑顔でにこりと笑ったーー。






「おう、ツラ貸せや」


「…………………………姉の次は弟ってわけ?」


 後に『靴箱の変』と学園の生徒たちに語り継がれる大騒動から1日。


 翌日になってもよくわからないダメージが残る赤髪の女子生徒は、あからさまに嫌そうな顔をしてフィンを見上げた。


「ーー昨日は頭に血が昇って…………言い過ぎて悪かった」


「……………………どうせ愛しのお姉ちゃんに謝れとでも説得されたんでしょ」


「何でわかった……っ!?」


「どう考えたってそうでしょうが」


 舐めてんの!? と息巻く一方で、抵抗する気力すらないのか、素直に立ち上がってフィンについていく赤髪の女性生徒。


 はぁと大きなため息をつくそんな赤髪の女子生徒の様子を盗み見て、フィンはボソリと呟く。


「ーー…………ソフィアに何言われたんだ? なんか……毒牙抜かれてるぞ?」


「もうあんたたち姉弟には関わりたくないのよ……っ!!」


 はぁっ!! と息を吐き出して、赤髪の女子生徒はだんだんと頭痛のしてくる自身の額へと手を当てる。


 どうしてこんな変な姉弟に無駄に絡みに行ってしまったのかと、心底過去の自分が恨めしかった。


「……昨日言ったこと、本心じゃなくて……なんて言うか、思いついたまま言っただけだから……」


「ーーもう良いわよ」


「え……っ?」


 キョトンと振り返るフィンに、赤髪の女子生徒はバツが悪そうに眉間にシワを寄せると、その赤い瞳を横へと逸らす。


「ーー言われたこと全部ホントなのは私が一番よくわかってる……っ! 面白くなくて、なんか目と鼻についたから八つ当たりしただけ。だからーー……」


 スゥッと息を吸って、はぁっと大きく息を吐くと、その赤い髪が揺れる頭をぺこりと下げた。


「ひどいこと言ってごめんなさい……っ」


 下げられた赤髪の後頭部に目を丸くして停止したフィンは、しばしの後にふっと息を吐き出して、視線を逸らすと頭をかく。


「………………お前と俺って少し似てるな」


「はぁ!?」


 何だって!? と思わず目を吊り上げて頭を上げる赤髪の女子生徒に、フィンはいたずら坊主のようにへへっと笑う。


「意地っ張りで、口が悪くて、ソフィアに頭が上がらない同士だろ?」


「あ、あんたと一緒にしないでよ!! 休戦よ休戦!!!!」


 調子に乗るんじゃないわよ!? と騒ぐ赤髪の女子生徒にフィンは軽く笑って口を開く。


「まぁ、《《そういうの》》は本人に言ってやってよ、多分喜ぶから」


「だから何で私があんたたちを喜ばせないといけないのよ!!!!」


 キィっと怒る赤髪の女子生徒に構わずに、んべと舌を出したフィンはふと思い出したように振り返る。


「ーーってことで、嫌がらせの方もそろそろ止めさせてよ」


「ーーはぁ? 何のことよ」


「は? 靴箱の中にゴミとか刃とかもお前たちだろ? 今日の朝だってーー」


「だから何の話よ」


「ーーえ?」


 赤髪の女子生徒が嘘を言っているようにも見えず、フィンは足を止めて振り返ると、眉根を寄せて赤髪の女子生徒を見やる。


「私たちがしてたのは遠くから、わ、悪口を言うくらいで、靴箱とかそんなの知らないわよ」


「ーー……は?」


 赤髪の女子生徒の言葉を聞いて、フィンの胸がドクリと鳴ったーー。



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