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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怪奇小説集・朧

崖に埋められた宝箱

作者: とらすけ

宝探しって興奮しますよね。これは、そんな宝探しのお話しです。

今回は直球ですので、おそらく皆さんの想像通りかと……。

 僕らが通う小学校で、ある噂が広がっていた。シゲユキ辺りが言ってたような気がするが、はっきりと分からない。学校の裏山の先の沼の近くの崖に宝箱が埋まっているという噂だ。最近の僕たちの話題は、その宝箱の話で持ちきりだ。


「宝石がザクザク入ってるらしいぞ 強盗犯が埋めたらしい 」


「お金だって聞いたぞ 何処かのお金持ちが”ぜいきんたいさく”とかで埋めたって 」


「いや、エッチな本が沢山入ってるらしい 」


「お菓子が詰まっている魔法の箱らしいけど 」


 噂はどんどん広がり、その内容もどんどん変化していく。僕たちは、是非その崖に調査に行きたいところだが、当然、崖で遊ぶのは禁止されているし、裏山の先となると結構遠かった。でも、僕たちは諦めきれずに夏休みに入ると、探検の準備を進めた。宝箱の探索時間と崖までの移動時間を考えて、早朝から虫取りに行きその後は自由研究の為原っぱを調査するという理由を考え、1日のアリバイにしようとした。そして、食料と飲み物も持参して1日がかりで宝箱を探すつもりだ。

 メンバーは僕とトミジとヒデユキとトシヒコの4人。決行の日、僕たちは虫取り網と虫籠を持ち、リュックサックを背負って集まった。


「よーし、行くぞぉ 」


 トミジの号令でまずはカブトムシやクワガタのいる林に向かう。早朝の空気が気持ち良い。


「あっ、ノコギリクワガタだっ 」


 ヒデユキが声を上げクワガタを捕まえる。僕もカブトムシを見つけた。僕たちはすっかり虫取りに夢中になってしまったが、ハッと我に返る。いけない、いけない、今日の目的は宝箱だ。僕たちは虫取りを諦めて崖に向かって歩きだした。

 濁った水を湛える沼の横の山の斜面が崩れ崖になっている。赤茶けた土が剥き出しになった崖の斜面は夏の強い日差しを浴びてカラカラに乾いていた。僕たちは水分を補給して崖の斜面の下の方から持ってきたシャベルで土を掘り出した。下からにしたのは、上の方だと宝箱を埋めるのにも大変だと思ったからだ。僕たちは4人で手分けして崖の土を掘っていった。


「どのくらい掘ればいいかな? 」


「そんなに深くはないんじゃないか 掘り出す時に大変だからさ 」


 トミジの言葉に成る程と思う。それでも30センチくらいは掘らないと駄目だろうと意見がまとまり僕たちはせっせと土を掘り起こしていた。

 かなりの重労働だ。僕たちは水分補給しながら掘り続け、昼には木陰に座り持ってきた菓子パンを噛った。午後からもひたすら土を掘り続けたが土の中から出てくる物は何もなかった。僕たちはだんだんと無口になっていく。すると、人の気配がした。僕らが顔を上げると、黒く日焼けした体格のいいおじさんが怖い顔で睨み付けていた。


「こら、お前ら ○○小学校の生徒だな 崖で遊んじゃいけないと教えてもらってないのか 先生に言うぞ 」


 僕らは慌ててリュックサックとシャベルと虫取網を持って、ごめんなさいと言いながら逃げ出した。そして、僕たちはとぼとぼと帰り道を歩きながら、あんな広い崖では見つけられる訳がないともう諦めていた。本当に宝箱があるのかも分からないし、先生に言われたら怒られるので、もう宝探しはやめようということになった。



 * * *



 翌朝、早朝のラジオ体操で顔を合わせた時、トミジが大変だと僕たちに言ってきた。


「さっきシゲユキと会ったんだけど、宝箱の場所が分かったぞ 」


「えっ、何? どういうこと? 」


 僕らが訊くとトミジは声を潜めて言う。


「その宝箱は夜になると青白く光っているらしい 月夜の夜に地面が光っている所を掘れば宝箱があるんだよ 」


「本当に? でも前はそんな事言ってなかったよね 」


「シゲユキも詳しくは知らないらしい 誰かに聞いたと言ってた 」


「今月の頭あたりが上弦だったから、そろそろ満月じゃない 」


 ヒデユキが興奮した声で言う。


「夜だと、度胸試しか花火大会か どうする? 」


「度胸試しは急には出来ないから、ヒロミの家で花火大会することにしよう 」


「みんなでお金出して花火買って渡せばヒロミなら喜んで僕たちのアリバイを証明してくれるさ 」


「そうだな、女子の方が信用してくれるし 」


「よーし今夜、作戦決行な 」


 僕たちはラジオ体操の後、準備のため忙しく動き回った。そして、夜、ヒロミの家に集まると、近所のサトミやチフミも来ていた。大量の花火をヒロミたちに渡し、満面の笑みを浮かべるヒロミによろしくと言い残し僕たちは崖を目指して出発した。

 暗い夜道を僕らは頭にLEDのライトを付け、川口探検隊のような気持ちでワクワクしながら崖に向かって歩いていた。そして、月明かりで不気味な真っ黒い水面の沼の横を過ぎると、その先の崖が仄かに光っているのが見えた。


「何か光ってる 」


「噂は本当だったんだ 」


「今度こそ、お宝ゲットだ 」


「みんなで山分けだからな 」


 僕たちは先を争うようにして崖に辿り着くと、崖の斜面の一部の土が光っていた。僕たちは興奮して光っている場所をシャベルで掘り始めた。しばらく掘ると、ガチッとシャベルに固い感触がある。


「何かある 」


 僕たちはさらに興奮して崖の土を掘りまくる。そして、それは現れた。それは僕らが想像していた宝箱ではなく、大型のスーツケースだった。僕らはスーツケースを引っ張り出すと地面の上に置いた。かなりの重量があったので、引き摺り出すのに苦労したが4人がかりで持ち上げた。


「開くかな? 」


 トミジがスーツケースの留め具に触ると、パチンと呆気なくロックが外れた。もう一つの留め具も簡単に開いた。


「開けるぞ 」


 トミジがゆっくりとスーツケースを開けていく。僕たちはライトでスーツケースを照らしながら瞬きもせずに見つめていた。そして、パカッとスーツケースは開けられる。そこには期待したお宝とはまったく違うものが入っていた。


「何これ、人形? 」


 そこには裸の女の人が膝を抱えて丸まっていた。強烈な腐敗臭が漂ってきて僕たちは気持ちが悪くなり吐きそうだったが、目はその女の人に釘付けになり動けなかった。女の人は顔や体の所々が腐って溶けているようだった。


「ほ、本物…… 」


 作り物なら良かったが、明らかに本物の死体だ。僕たちは情けない話だけど全員恐怖でおしっこを漏らしていた。


 その後は誰が連絡したのか憶えていないけれど、駐在さんが自転車でやって来て、すぐに駅前交番のお巡りさんもやって来て、辺りは大騒ぎになった。

 もちろん、僕らは家族や先生、お巡りさんからきつく叱られた。



 * * *



 僕が小学生の頃の話だ。けっきょく犯人はすぐに捕まった。僕らが崖を掘っている時に会った、あの日焼けした体格のいいおじさんだった。おじさんは殺された女の人に付きまとっていて、冷たくされて殺してしまったようだ。遺体を崖に埋めたけど心配でちょくちょく見に来ていたらしい。

 その後、同窓会で会った時にトミジが白状した。あの噂を広めたのはトミジだった。トミジが柿の木に木登りしていた時、下から誰かの声が聞こえたらしい。低い声で男か女か若いか年配の人かも分からなかったという。崖を調べに行きたかったが1人で行くのも怖いので噂を広めて僕らを巻き込んだようだ。そして、発見出来なかった日の夕方にトミジがホースで庭に水撒きをしていたら垣根の向こうで、また声が聞こえたという。

 あの女の人は暗い冷たい土の中で早く誰かに見つけてもらいたかっただろう。

 そう考えると、そのトミジの聞いた声というのはもしかすると…………。



 * * *



 男は泣きながら語った。好きな人をカッとなって殺して埋めてしまった。でも、日が経つにつれ彼女が可哀想で誰かに早く見つけて貰いたかった。自分で掘り起こすのは怖かったんです。噂を流せば誰かが見つけてくれると思ったんです……。





お読みくださりありがとうございます。

子供たちが崖で遊ぶ様子が書かれていますが決して真似しないようお願いします。大変危険です。

感想戴けると励みになります。

よろしくお願いします。


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