表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Tally marks  作者: あこ
本編
3/32

03

巽にとってカイトは自分に見合う容姿の、自慢の恋人だった。

巽は自分の容姿を解っているから、見目麗しいカイトと共にいると受ける視線一つ一つに「どうだ、いいだろう。こんなに綺麗な男が俺のオンナになってるんだ」と思っていたのだ。

そこにもちろん愛はある。なければこんな巽でも“恋人”にはしない。

愛を囁けば白い頬が桜色に染まって、少し間を置いてから「俺も」とか「好き」と言う薄い唇がたまらなかった。愛撫に応え快感に震える体も支配欲が誰より満たされる。

自分がこの体にしたのだ。

女なんて抱けない体にしてやるのだ。

なんて思って体に自分との快感を刻み続け、愛を囁いた。

(だがなぁ……俺はどうにも性に合わねぇ)

浮気相手もセフレも──似た様なものだが、巽の中で“セフレ”と“浮気相手”はまた少し違う様だ──本命になれない事に文句を言ったがリトを指差し『あれの弟』とカイトの写真を見せると誰もが悔しそうに唇を噛んで黙った。今まではそんな事はなかった。そこもカイトとの付き合いで楽な事だっただろう。


「くそったれ!」


ガン、と音がしゴミ箱が転がる。

幸いだったのは彼が意外にも綺麗好きで、今朝がゴミの回収日で、ゴミを出してからこのゴミ箱に入ったのがタバコの箱一つだけな事だ。転がっても出てくるのはそれだけである。

「くそッ」

灰色のカーテンが風に揺れる。ここは巽の自宅だ。一人暮らしの1LDKは親の持ち物である。

今までの恋人は飽きて捨ててきた。束縛が激しいとか、嫉妬深いとか、いろんな理由をつけて捨ててきた。正直理由なんて取って付けた様なものである。そんな付き合いをしてきて、捨てられるなんて巽の中ではありえない(・・・・・)事だ。

もっといえば、あってはならないくらいの事と認識しているかもしれない。

風が頬に当たるのすら腹が立ち、巽は乱暴に窓を閉めた。

がしゃん、とガラスが悲鳴をあげる。


五回なんてなんとなく(・・・・・)言われたものだと巽は信じていた。

「巽さん、今日誰と歩いてたの?俺、見ちゃったんだ」

浮気を問いただす時、カイトはいつもこういって切り出す。ここで巽がだんまりを決め込むと「浮気相手?浮気したの?それとも、セフレ?」と聞き、巽の気分では巽から「セフレ」とか「ああ、浮気」と言う。

どちらにせよこの先はこれまたいつもカイトが「浮気はしないで、セフレも嫌だ」と白い肌を悲しみと怒りで赤く染めて、その赤い頬に綺麗な涙の筋を作る。

そんなカイトにごめんと言って、お前が一番だ、もうしない。と上辺だけの謝罪とキスでごまかしていた。

いつもそんなやり取りだから、五回目だろうが何回目だろうが、そうだと信じて疑わなかったのだ。


「──────荷物、荷物がねぇ!」


ふと、ガラステーブルの上に紙袋が置いてあるのをみ、中身を確認して慌ただしく家の中を確認した巽は叫ぶように言った。

紙袋の中身は少ないけれど巽がカイトの家に持ち込んだ荷物。そしてこの家からなくなったのはカイトの荷物だ。

(全て、すっかりなくなって……)

五回目の浮気をした自覚はあった。目が合ったからだ。五回目だと解ったのはあのメールが来てからだけれど、目撃されたのは知っている。

その浮気をした日から今の状態に気がつくまで十日もあった。十日目でようやく気がついたのだ。

それもカレンダーで確認するまで気が付かなかった。

カイトの性格はこれでも巽は解っているところはあると思っているし、そうだと信じている。

五回目の目撃の後、自宅でゆっくり考えて、行動に移したのだろうと。そして行動する時は無駄なく計算したようにきっちりとやったのではないか、と。

その通りでカイトは自分の家にある巽の荷物をまとめながら父親に鍵の変更したいと電話をし、荷物を巽の家に届けるついでに業者に電話をして約束を取り付け、怖いから急いで欲しいと訴え巽の家から荷物を持ち帰る頃に業者に来てもらって値段なんて二の次で交換してもらっている。あっという間に。

業者の仕事の早さはさすにそうして欲しいと頼んだカイトも驚いたけれど、業者はカイトの顔を見てこれは不安になるだろうとかわいそうな少年に心底同情したからだ。


よろよろとガラステーブルの前に座り込むと紙袋に腕が当たって荷物が溢れる。がしゃんと音を立てたのはこの家の鍵だ。オートロックだから出来た事だろう。

──────巽さんの愛は、何人に向ける事が出来るの?俺は一人にしか、恋人への愛は向けられないのに。

唐突に言われた事を巽は思い出した。

あの時は四回目の浮気を認めた後、カイトが前後不覚になるほどの快感におぼれたセックスをした後だ。

(俺はなんと答えた?)

考えて考えて巽は思い出した。

「『恋人に対しては、一つだろ』」

それは今も間違っていないと巽は思う。恋人は常に一人(・・・・・・・)だったからだ。浮気相手は浮気相手、都合よく使うセフレはセフレ。浮気相手もセフレも、恋人よりも友人よりも“地位”は低くて下手したら知り合い程度だ。

付き合いが金で繋がってると言っても過言ではない親よりも“上の地位”の恋人。自分がそこに置くのだから、少しの摘み食いくらいなんだというのだと巽は未だって思う。

「許さねぇぞ、カイト」

吐き出した煙と共に、低い声が部屋に落ちる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ