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Tally marks  作者: あこ
本編
2/32

02

カイトは学校でも目立つ生徒だ。

女性的な顔に、長身だが華奢な体躯。頑張っても筋肉がつかなくて白い肌。黒い髪と瞳の色が肌の白さを際立たせて儚く見せる。

ノンケすらバイセクシャルに変えてしまう事もあった彼は、だからと言って孤立する事はなかった。

緩やかに話し、ゆったりと考えて話すカイトは人を突き放す事はなく、相手を受け入れるところから始める。受け入れてから選別し、ほとんどの人間が篩から漏れる事がない。

何せカイトは“それもこの人の個性”と思う節があるからだ。

そうした面では姉のリトの方が厳しく(・・・)、受け入れる前に考え“知り合い”と言える相手すら厳選した。

だからだろうか。彼氏と呼べる相手は今までに二人。

一人目、つまりは俊哉の前の彼氏はカイトに対してしつこい面(・・・・・)を見せた瞬間、知り合いですらなくなっている。この彼氏との付き合いは触れてはいけない事柄で「あれは、よく言う若気の至り」なのだそうだ。

そんな少し気難しい(・・・・)リトとそのリトを優しく見守り慈しむ俊哉は、弟から見てもお似合いで憧れでもあった。


そしてカイトは高校三年になるまで三回恋人が変わっていて、四人目が巽である。今までの彼女と別れる原因は緩やかな時間を過ごし、どちらかといえば引っ張っていくタイプではないカイトに彼女たちは「多少強引にでも引っ張ってほしいのに」という小さな不満を持ってしまい、それが積もり積もって、という事が半分。もう半分はカイトに恋人がいても御構い無しに告白してくる相手への嫉妬に疲れるからだという。

そこにきて藤春巽はカイトをやや強引にひっぱる──────大雑把に言うと『俺について来い』なタイプだったから、互いにそこはちょうど良かった。

(でも、浮気とかは、別)

最初の浮気は付き合ってからひと月もしなかったある日。カイトはいつだったかもう記憶にない。けれどひと月もしなかったある日だ。

ベタな話、リトと買い物をしてる最中に可愛い女性の腰に手を回しキスをした瞬間を目撃した。

憤慨し殺す勢いのリトがその二人の間に入ろうとしたのを止めたのはカイトで、その時カイトは「五回カウントするから」と巽に突きつけた。


そう、この時からカウントが始まったのだ。




「リト、カイトはどこだ」


睨み付ければ大体の女が怯えると、巽は知っている。自分の容姿を理解して睨むからだ。

しかしリトは怯えない。

弟が大切だから、という理由もあるだろうけれど、彼女は意思も強くそしてそれと同じく腕っ節(・・・)も強いからだ。

「言われたでしょ『無関心になった』って。別れたのよ、あんたとカイトは」

「俺は了承しちゃいねぇよ!」

「言われてなかった?最初の浮気を問い詰められて認めた時。『五回まで』って」

ぐ、と何も言えなくなった巽に冷たい視線を送ってから、リトは桜並木を歩く。門を目指し、巽に背を向けて。

コツコツと地面を叩くヒールの音にハッとした巽は大股でリトとの距離を詰めると、その細い肩を掴み足を止めさせた。

「痛いわねっ!」

掴む手を左手で掴みリトはその手を捩る。うめき声が聞こえたところで手を離した。

彼女がこうして強いのは、彼女が自分の容姿を理解しているからであり、そして弟の容姿を理解しているから自衛すべく空手を習い続けたからだ。

「ってぇな」

「痛くしてるのよ、バカじゃない?煩いわね、捻り折るわよ!?」

「てめっ──────まあ、いい、カイトを出せよ」

「あの子は言ったでしょ?『五回まで』って。五回、浮気を目撃したらおしまいって」

「五回も十回も同じだろうが」

「──────バカじゃないの?」

はあ、と溜息をつき巽を見上げる目は剣呑としている。巽もリトを見下ろす目が鋭くて二人を避けて人が通る。

「あの子は『受け入れて』から『篩にかける』子なの。篩の目が細かくて大概の事は『個性』にするのよ。あんたと付き合う時にあんたに言ったんでしょ?『浮気はしないでほしい。セフレなんて作らないで、みんな捨てて。それが個性でも、俺は耐えられない』って。それでもあんたの『個性』が『浮気』だから、『五回まで』許すって言ったのよ。浮気なんて大嫌いで、セフレなんて嫌で、お互いを大切にする愛が好きなあの子が、あんたが好きだから『個性』だなんて諦めて付き合ったのよ」

「個性なら何度だってかまわねぇだろうが」

「構うわよ、バカじゃないの?もう本当、死ね。でも死んだら流石にあの子も心に……いや、でも、あんたが死んでもあの子、もうニュースの一つにしか思わないわね」

「なんだって?」

眉を上げた巽をまじまじと見てからリトはスマートフォンを出し電話をかける。時間はかける前に見た。今頃リトが作った弁当を食べているに違いないから、間違いなく電話に出る。

「──────カイト?今平気?……うん、そう、良かった、美味しい?ふふふ、嬉しい。うん、藤春巽がカイトと話がしたいんだって。え?いい?」

ほら、とリトは不機嫌丸出しの巽に金色に輝くスマートフォンを差し出す。奪うように取り上げた巽はスマートフォンを耳に当て

「おいてめぇ」

と脅すような声を出す。巽はセフレを作ろうが浮気しようが、恋人には(・・・・)優しかった。例え浮気相手を優先してドタキャンしても、だ。こんな声を出さない。

それだけ怒っているのだろう。と電話の向こうのカイトは感じてる。


「何か、ご用ですか?藤春さん(・・・・)


ゆったりと吐き出された言葉に巽はひくり、と口元が震えたのを自覚した。

「ご用ですか?じゃねぇだろ?何勝手に別れ告げて、お前、マンションの鍵も取り替えやがったな」

「はい。ですが、俺は言ったと思います。『五回まで』と」

冷たい視線を向けるリトと同じ発言に今度は巽の眉間にシワが寄った。

「俺は認めねぇからな」

「認める、認めない、という問題ではもうなくて、これはちゃんと約束した話です。藤春さんも『五回だな、解った』と、言っていました。覚えてますよね?」

反論しようにも確かに「解った」と言った事も、その後「もうしねぇよ、お前が一番だ」と言ったのも覚えているから巽は無言になる。

「五回目を見てから俺、藤春さんへの気持ちがふわりと消えて、無くなりました。五回も、何回も、変わりはないとか言いますか?だとしたら俺の気持ちはこうです。『五回も傷ついて、これ以上傷つくのは、ごめんです。』さようなら」

巽が口を開けた時、横からリトがスマートフォンを取り上げる。簡単に取り返せたのを見ると、巽は衝撃を受けたのだろう。手に力が入っていないようである。

「カイト、今日のお夕飯何食べたい?──────うん、解った、じゃぁそうしようね。お姉ちゃん、最高に美味しいの作るわよ」

スマートフォンをカバンに戻したリトは呆然と立ち尽くした巽を一瞥し、門を通って大学を後にした。

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