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Tally marks  作者: あこ
番外編:本編中
14/32

★ 慚愧:01

通学鞄に荷物を仕舞い込んだカイトは、また明日と挨拶をするクラスメイトに同じように返し、椅子に腰かけたまま窓の外を見た。

別に用事があるわけでもないのに、カイトは椅子から立ち上がろうとはしない。

(別に、俺、誰か(・・)を待ってるわけじゃないのに)

これ以上考えたら精神的に悪そうだとカイトは小さくかぶりを振って、机の天板に手をついて立ち上がる。

たったひとつ、たったひとつ変わった事が

(なんだか、変に、重たい)

吐いた息も、思いの外、深かった。




立岡淳太(たておかしゅんた)はそんなカイトを廊下から見ている。

その容姿と性格、そして彼の姉(・・・)のお陰でカイトはちょっとした有名人だ。

(それに、恋人が年上の男だしなぁ)

誰かがカイトに直接確かめた事はないけれど、藤春巽はああいう男(・・・・・)だからカイトと恋人である事を隠すことはしない。デートしようが何をしようが、『こいつは俺のモノなんだ』といった形で堂々とする。だからぼんやりと『須藤カイトには、どうやら男の恋人がいるらしい』程度の認識を持つ人間がいた。

だからといってそれを持って差別やいじめにならないのは、カイトが美人だからかもしれない。あんな顔なら、それもありえるかも。みたいなところだろうか。

それにカイトが差別や誹謗中傷されたら、カイトはどうするのだろうか、どんな反応をするのだろうか。そういうあまりに不透明でモヤモヤとし(・・・・・・・・・・)た想像出来ない事が(・・・・・・・・・)恐怖に近いものを感じさせるのが、そうならない、なりにくい、一つの要因かもしれない。


ともかく、そんなカイトを眺めた淳太はカイトと巽の関係を自分の目(・・・・)で見てしまった人間である。

学校からほんの少し離れた場所に駐車された車、それに寄りかかり待っていた強面の男にカイトは近寄り、男はカイトを引き寄せキスをしたのだ。目を丸くした淳太だったが、カイトが「ここでそういうコト、しないでっていってる」と言うにとどめたのを聞き、“らしい(・・・)”じゃなくて“そうだ(・・・)”なのか、と知ったわけだ。


「須藤?帰んないの?」

努めて普段通りの自分で、淳太は教室から出ようとしないカイトに声をかける。

カイトはゆったりと顔を淳太に向け、小さく笑った。

「あ、うん、帰る気持ちでいるんだけど、なんだか、腰が上がらなかった」

「ははは、あのカッコイイお姉さんと喧嘩した?俺、母さんと喧嘩するとそうなるんだ」

「姉さんと喧嘩かあ……最後にしたの、いつだろう」

「仲良いんだっけ?羨ましいよ。俺なんて姉ちゃんと喧嘩ばっかりだからさ」

ここで漸く、カイトは鞄を手にして淳太の立つ出入り口に歩き出した。

「須藤、このまま帰るの?」

廊下に出たカイトに淳太が聞けばカイトは首を振る。

「真っ直ぐ帰るかな。でももしかしたら、兄さんの顔を見に行くかも?わからないや」

「兄さん?」

「うん」

昇降口に並んで向かう。淳太はいつ以来かと考えた。

二人は一学年目はクラスメイト、二学年目は同じ委員会に所属していた。だから

(それ以来?まじか)

淳太はそれは懐かしく思って当然だと納得し、カイトの“兄さん”の話を聞いた。

いつのまにか、イケメンの姉に婚約者ができ、既に兄さんと呼んでいる事。そして兄さんは花屋である事。

「はー、あのお姉さんに婚約者!イケメンなんだろうなー」

「うん。なんていうか、スポーツしてそうな(・・・・・)、すごく爽やかな人だよ」

「してそう?」

「うん。兄さんは引き篭もりたいってよく言ってて、インドア派なんだ。スポーツは観るもので、するものではないんだって」

「爽やかもったいねえ。俺がもらいたいよ」

控えめに笑うカイトと淳太はこのまま最寄りの駅まで一緒に歩いた。

また、明日。よくある一言に、淳太の心はトンと跳ねた。


この日からクラスが違う二人は時々話すようになった。

どこか大人びたようなゆったりした間合いで話すカイトと、無邪気な笑顔がよく似合う淳太。

バランスの取れた雰囲気の組み合わせで、尚且つ目を引く二人だ。

今日はカイトが淳太に誘われ、天文部の部室で一緒に昼食をしていた。

「立岡、天文部だったっけ?」

入るなりカイトが聞けば、淳太はバツの悪そうな顔で頬をかく。

「いやあ、実は、ひどい話なんだけどさあ、聞いてくれる?」

「ん?」

勧められるままに椅子に座ったカイトは、本日の昼食、泊まりに来ていたリトのお手製弁当を机に出した。

淳太も同じように昼食を出す。弁当と菓子パンだ。

「俺の姉ちゃん、我が強いんだよ。いや、あれは我が強いってのと違うかもしれないけど……。まあ、それでさあ、天文部の先輩にがかっこいいって一目惚れ。なんとか近づきたいのに姉ちゃんは他校生。『よーし、あんた、帰宅部なんて舐めたこと言ってないで天文部入りなさいよ!』ってかんじ。拒否したら、あいつ、有る事無い事母さんに言って──────はあ、思い出したくない」

「お姉さんの恋は、叶った?」

「ここからまたひでぇの。次の月に彼氏ができてた。意味わかんねーよ」

二人で弁当を食べ始めながらも会話は続く。

「でもさあ、俺が入った時に先輩喜んでさあ、姉ちゃん彼氏できたんでやめますなんて、事情しらねー先輩に言えないし、で、そのまま在籍してるって感じ。いつのまにか部長だよ。部員は幽霊部員で活動なし」

「俺は、帰宅部だから、所属してるだけいい気がする」

ふんわり笑って言ったカイトは甘めの卵焼きを口に入れる。

リトの卵焼きははちみつの甘さ。カイトにとってはこれが卵焼きの味だ。

「天文部って、何、してたの?」

「先輩がいた時は、流星群とかそういうやつ見たりしたよ」

「へえ、天文部みたい」

「みたいじゃなくて、天文部なんだよ!」

「ははは、ごめん」

そうしてそのままのんびり昼食を取って二人はそれぞれの教室へ戻る。

カイトは淳太が教室に入ったところを見送って、自分の教室に入った。

なんとなく、淳太の背中を見てしまったのだ。


「へ?流星群?」

「うん。綺麗に見えるんだって。倉庫の屋上、借りたらダメ、だよね?」

「いやあ、カイトくんとカイトくんが大丈夫ってお友達なら、屋上の一つや二つ──────って一つしかないけど貸せるよ」

天文部の過去の活動を聞いてから一週間経って、淳太から流星群の話を聞いたカイトは真っ直ぐ花屋の倉庫に向かい俊哉に交渉している。

流星群がピークの夜、屋上に入らせてほしい、と。

「カイト、流星群に興味なんてあった?」

リトのもっともな意見にカイトは恥ずかしそうに笑う。

「学校の友達が、名ばかりの天文部部長で、でも天文部だから望遠鏡使えるんだって。ここからなら綺麗に見えるかなって、借りれたら誘ってみようかなって思って」

「そう」

「姉さんはやめたほうがいいって、思う?」

「風邪をひかないようにね?」

「あ!カイトくん、うちに二人で使えるくらいのテントがあるよ!毛布も貸すから、見終わって疲れたら寝ちゃえるようにする?」

「うーん……淳太に聞いてみる」

「もしそうするなら、お夕飯にお弁当作ってあげるわ」

「ありがとう、姉さん」

ご機嫌そうなカイトの顔に、リトと俊哉は顔を見合わせた。

連絡して決まったら言うね、と倉庫から帰るカイトを見送ったリトは額をポリ、と掻いてから倉庫に入る。

同じように唖然というか、呆然というか、驚いた顔の俊哉と目があってリトは息を吐く。

「カイトが、お友達とお泊まり(・・・・・・・・)ですって」

「うん。俺もちゃんと聞いたよ」

「しかも、カイトが誘うつもり(・・・・・・・・・)みたいじゃない」

「うん、俺もそう判断したよ」

お互い顔を見合わせて、揃って首を捻る。

それだけカイトの行動は二人に驚きをもたらしたのだ。

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