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Tally marks  作者: あこ
本編
12/32

12

卒業、夏休み前、クリスマス直前。

この三回はさしもカイトもうんざりする。

何処か鬼気迫る顔で告白される事が多くなるからだ。

卒業式、急遽日本の裏側まで出張になった父親の代わりに出たのはやはりリトで、今までと違い俊哉も同席してくれた。

どうやって戸籍上他人の俊哉が出席できたのか。カイトは不思議でならない。きっと、姉が尽力(・・)したのだろう。多分。


カイトは「別に良いのに」と言ったのだけれど、二人は「何を言ってるの!?」と詰め寄って、その顔にカイトが大笑いをしたのは昨日の事だ。

あまりに鬼気迫る顔で保護者の気持ち(・・・・・・・)を延々と話す二人に「二人の子供じゃないのにな」と、つぶやいのも敗因か。

ごめんね、と気持ちは嬉しいけれど付き合えないのだと告げ、顔の向きを変えたカイトの先にいた女子生徒が小走りでカイトの方へ近寄る。

自分を見ているのか、それとも自分の後ろにいるだれかなのか。

あの子は何を誰に伝えに行くのだろうとぼんやり思っていたその女子生徒の後ろ。とても卒業式に似合わない男をカイトは目にした。

門の向こう側。

人の邪魔にならないところにいるのに、カイトのところからは離れているのに、目立って仕方がない男にカイトはふわりと微笑んだ。来なくて良いと念を押したはずの三人目(・・・)だ。

この三人目は式には出席していない。時間を見計らってここにきたのだ。

(良いって言ったのに……)

カイトの視線の先で、リトがその三人目の隣に立つのも、二人が何やら言い合っているのも確認出来る。

(二人とも、目立つから、やめれば良いのに)

その二人の間に俊哉が入り、リトを宥めて巽に何か詰め寄っているからますます目立つ。

(あの二人の間にいるから、目立たないって思ってるみたいだけど……、兄さんは爽やか系なイケメンだから、目立つんだよね)

あの三人を止めるのはカイトしか出来ない。

でもなんとなく、そのままカイトは見ていなくなった。

古いドラマの再放送。昨日なんとなくつけたテレビで見たそれ(・・)があそこに広がっている。

娘はやれないとはねのける父親となだめる母親、頼み込む彼氏。この場合は父親がリトで母親役は俊哉

(──────彼氏が巽さん)

心で言って制服の上から心臓のあたりを握った。

まだ信じていない。疑っている。キスはされて(・・・)いる、セックスはしない。手はつなぐ。優しくしてくれているし思いやってくれる。それもカイトが驚くほどに、だ。

(最初から、こうだったら、よかったな)

大学で巽がますますもてているとリトがいっていたのをカイトは聞いた。前からだろうと言ったのにリトは真顔で言ったのだ。

『馬鹿ね、あんたとまた、微妙な状態(・・・・・)とはいえ付き合えたからよ』

と。言われたその時はどう言う意味なのか、カイトにはさっぱり理解出来なかった。

しかしカイトは聞いてから巽をよく見るようにして、はた、と感じ取った。強面な顔も、それにぴったり似合う体躯も変わらないけれど、人を惹きつけるくせに妙に突き放すトゲトゲしさが少しだけ緩和したのだ。

ただし、カイトといる時だけ。

それでも余韻(・・)が残るから、トゲトゲしさが緩和した顔で巽は大学に顔を出す。そうして近づきやすくなったと感じた男女が告白をするのだ。

答えはいつも同じ。

「生涯かけて愛して守る相手がいるから、無理だ」

ばっさり切り捨てて立ち去る。今までにない姿だった。


最初から、そうだったらよかったのに。

きっとそう思っているのはカイトだけではないだろう。

母親役の俊哉も、父親役のリトも、そして彼氏の巽もカイトもみんなで、そう思っているはずだ。

誰より強く思うのは、後悔しているのは巽だろうけれど。


三人を見ていたカイトと巽の視線が合う。

カイト、と呼ばれた気がしてカイトは弾かれるように歩き出した。

全て、本当に嫌な事を全てここに置いていけたら良いのにと言わんばかりに、後ろ髪を引かれる様子もなく門の先へと歩き出す。


「カイト、約束しただろ?メシ、食いに行くぞ」


三人の前に立てば早々に言われてカイトは瞬く。確かにそうした話はあった。卒業祝いに行こう、と。ただ、今日だなんて聞いてなかったからおずおずとリトを確認するのを忘れない。

なにせ彼女は今父親役(・・・)である。

「言えよ、カイト。どうしたいんだよ」

どうしたい、と口を閉ざしたカイトの頭を巽が撫で、その手をリトが叩きおとす。

お母さんでもあり今はお父さんでもあり、そして姉であるリトは無言で言う。お前には嫁にやれない。

「なら、俺が言ってやる。リト、俊哉、お前ら含めて四人で予約してんだよ、おら、いくぞ」

瞬いたカイトの額に巽がキスをする。周りがザワザワとしたけれど巽はまったく気にしない。

そういうところはまったく変わっていないのだ。リトがそんな行動に睨む事も、やはり変わりはない。

「いいの?」

「義理のお姉様とお兄様も大切にしなきゃ、男がすたるじゃねぇか」

すたれ(・・・)、このクソ男。死ね」

「ね、姉さん」

「俺まだ、藤の花が嫌いなんだなぁ」

「ぶッ、兄さん、それは職業的に、どうかと思うよ!」

「死ねねぇし、花に罪はねえよ。ってことで、お兄様、お姉様、いくぜ。睨んでっとうまいメシも酒もまずくならぁ」

ふわりと欠伸をした巽は、眉間にしわを寄せた二人に苦笑いのカイトの腕を取り歩き出してしまう。当然そうなれば二人は追いかけるまでだ。


「ねえ、俺、いつ信じられるのかな」

「いつでも構わない」

「なんかよく解らない罪悪感くらいあるんだけど?」

「ならそれも俺にぶつけちまえよ『てめぇのせいで意味不明な罪悪感に悩んでるんだ』って具合にな」


巽に見惚れたのは初めてだ。カイトではなくて、リトが。

リトは本当に腹が立つほど、巽に見惚れてしまった。


「ほんと、いやね。腹が立つほどに、嫌な気持ちよ」

「リトさんの顔と言葉は違うみたいだけどね?」


卒業式の喧騒から少し離れて、しかしそれでも人通る駅前。

優しすぎる笑顔を向ける男は綺麗な少年を抱き寄せる。

「ぶち壊してやるのは、今日()諦める。俊哉、一番高い酒だけ飲みましょう。水のように飲んでやる。私が()なのを後悔させてやろうじゃないの。フッ、飲みまくってやるわよ」

「それはいいね、リトさんがんばって!俺は応援に徹するよ、がんばって!」

「任せて」

数歩で追いついた二人はそれぞれを離して間に入る。

「私達は許してない(・・・・・)から」

「へえ」

言ってリトはカイトの腕に自分の腕を絡めた。

「リトさんに早く許してもらえよ、藤」

「了解了解、お兄様」

付き合う前に、浮気を見る前によく見た光景にカイトは自然に笑顔になる。


「あと、五回だといいね。巽さん」


囁いた声は誰にも届かない。

彼の頭の中に線が一つ引かれた。

未来の巽(・・・・)を許してあげられるよう、もっと彼をよく見て行こう、知って行こう。だから今これからの行動をちゃんと見ていこう。

まずはその一本目。

許せた時はまた、巽を信じる事が出来るのか。

カイトはそれを楽しみにする事にして、早くご飯を食べたいと姉の腕をとったまま巽に笑顔を向けてみせた。

それはきっと、誰もが見惚れる様な顔だったに違いない。

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