フランとこいしの場合。
どうもこんにちは水橋です。今回は東方Projectの百合小説です。こいフラです。まだまだ文章が拙かったり、解釈違い等もあったりするかとは思いますが、温かい目で見ていただけたら嬉しいです。
霧の湖の畔に建つ、紅く窓が少ない洋館。悪魔の住まう紅魔館の一室。
床一面を覆う赤いカーペット、室内を照らすシャンデリアの明かり。20畳はあるのではないかと言うぐらい広い洋室に陣取っている天蓋付きのベッドに横たわる少女。彼女こそが紅魔館の主の妹であるフランドール・スカーレットである。
「…………むぅ」
そんな彼女は今、とある少女に絡まれていた。寝ている彼女の頬を突くその少女。この広い幻想郷を探しても、悪魔の妹とされる彼女にそんなことができる者はそういないであろう。
「フランちゃん〜。遊ぼうよ〜」
古明地こいし。フリルがふんだんにあしらわれた緑を基調としている可愛らしい衣装と、宙に浮遊している閉じたサードアイが特徴的なこれまた可愛らしい少女。そして、数日前にどこからともなく現れた謎多き少女でもある。
初めてこの部屋に来られたのは一週間ほど前だっただろうか? 初めて会った時、早々に弾幕勝負に持ち込んだが(というか、相手から持ち込まれたと言うべきか)、まるでありもしない幻像に放っているのではないかと錯覚してしまうほど当たらない。
◆ ◆ ◆
「貴女は……誰かしら? 紅魔館にはいなかったと思うけど……覚妖怪?」
「ん、そうだよー」
「何故こんなところに……」
「……んっとね……、……わからない。気がついたらここにいたんだよ」
「…………そう」
「貴女はだぁれ?」
「……私はフランドール、フランドール・スカーレットよ」
「そっかぁ〜フランちゃんか〜。私は古明地こいし。急だけどフランちゃん、遊ぼ♪」
「弾幕ごっこ…………、…………いいわよ、私も退屈していたところだから」
◆ ◆ ◆
いきなりちゃん付けで馴れ馴れしいこいし。
そのようなくだりで始まった二人の遊びの結果は、前述した通り。やられこそしなかったものの、こちらの攻撃も全く当たらなかった。結果は引き分けと言ったところであろうか? ……新しいおもちゃが飛び込んできたと思えば…………これほどまでにタフとは思わなかったわ……。
「……また貴女? こう何日もここへ来て……何も面白いことは無いわよ?」
そう、彼女は一週間ほど前にここへ来て以来、それから毎日この場所へ訪れているのだ。別に何も面白い物は無い。毎回ふらーっとこの場所へ来たと思えば、『お姉ちゃんがどうした』とかそういった他愛もない話を一方的に話していった後、来たときのようにふらーっと帰っていくだけだ。
身体を上半身だけ起こして、こいしと向き合うような体勢になる。ちなみに、初戦以来、私とこいしは弾幕ごっこをしていない。泥仕合になることが分かっているからだ。
「ん? 面白いこと……?」
「……そうよ。貴女……何を好き好んでこんな所まで来ているの?」
そう、そこだけが唯一にして最大の疑問だ。最近になって巫女やら魔法使いやら色々な人が来るようになったが、それでもあまり好き好んでくるような場所ではないはずだ。
そんな当たり前の疑問をぶつけてみると、こいしは何故そんな事を聞くのかがわからないと言ったような表情をする。……そんなにおかしなことは聞いていないはずなんだけれど。
すると、こいしは急に満面の笑みを浮かべて、目と鼻の先……吐息がかかるぐらいの距離まで急接近する。
「友達に会いに来るのは駄目かな?」
「……! ちょ…………」
友達、と言われたことにも驚いた。面と向かってそんな事を言われたのは初めてだからだ。だが、それ以上に戸惑ったのは、その次のこいしの行動であった。
ただでさえ距離が近いというのに、こいしが更に距離を詰めてくる。不意打ちであったため、躱すことは叶わなかった。
―――ちゅっ。
と静かな室内にリップ音が響く。
彼女が急に顔を接近させてきたと思いきや、軽く唇を合わせて口づけをしてきたのだ。一瞬自分が何をされたのかわからなかった私だが、すぐに状況を理解した私は顔を真っ赤にして少しこいしから距離を取るようにベッドの端に移動する。
「なっ……ななななっ……何を……⁉」
これに関してもこいしは至極当然のように平静としている。まるで私が何故こんなにも慌てているのかがわからないといったよう。
「森に落ちてた外の世界の本に書いてあったよ。かいがい……? では挨拶でキスをするって」
「…………多分、口にするんじゃないと思うんだけどな……」
……私のこいしに対するイメージを元に考えると、外の世界の文化が書かれた本にキスが挨拶として使われていると言った物を見て、興味本位で試してみた……というようなところだろう。
駄目だ。完全に彼女に振り回されてしまっている。
「えへへー」
私の気持ちなどお構いなしの様子のこいし。
それにしても、あまりにも自然に接吻をかわしてきたため、少し心配になることがある。
「……誰かれ構わずやってないでしょうね? ……その…………キス……」
「? してないよー。お姉ちゃんぐらいしか」
……別にこの子がどこで何をしていようが私には関係がない。だが、その事を聞いてどこか安堵を覚える私もいた。
……なんでかしら。
だがしかし、こいしの行動はこれで終わらなかった。次の瞬間に空中へ浮遊したかと思うと、私の直ぐそばにまで来て、身体を丸めるようにしてベッドの半分を陣取った。添い寝のような体勢になったのだ。
「ちょ……っと! いきなり何を……」
「……ふぁぁ…………。眠い」
それ以上には何もされない。私の直ぐ側にまで来たのは本当に眠かったから。…………本当に分からない……。
そしてまた次の瞬間には寝落ち。……本当、次見たらいなくなっちゃうんじゃないかってぐらい自由で、掴みどころのない……。不思議な子。
ここまで人の相手をして疲れたのは久しぶり……というか私が幽閉されていた495年間、紅魔館の外の人と会話なんてしたことがなかったから久しぶりも何も初めてかもしれない。
「……はぁ…………」
なんだか無性に疲れた。こいしのすやすやと安心しきった寝顔を見てしまうと、起こすのが無性に悪い気がしてきて、とりあえず寝かせておくことにした。……そういえば、お姉様や咲夜はこの子の事を知っているのかしら。
そっとこいしに布団をかけてあげると、翼で浮遊するようにして音を立てずにベッドから降りる。咲夜に頼んでお茶菓子をもらってくるためだ。昔はこの部屋から出るなどあり得なかったが、最近はそうでもなくなっており、稀だが部屋の外へ出ることもある。
お茶菓子をもらってくるのは単純に小腹がすいたから。……でも、起きてたらこいしにも分けてあげてもいいかしら…………。
ドアの取っ手に手をかけると、ふと気になってこいしが寝ているベッドを見返す。そこにはまるで眠り姫のように可憐な表情でベッド全体を陣取るように手足を広げるこいしの姿が……ってちょっと、私のベッドよ。
…………はぁ。
私はお茶菓子をもらうため、部屋のドアを開けて外へ出た。
◆ ◆ ◆
というわけで余っていたクッキーと紅茶のポットをもらってきた私。外へ出ている私を見て、咲夜は少し物珍しそうにしていたが、快く用意してくれた。
自室のため、ノックはせずに部屋の中に入る。そこには先程と同様眠っているこいしの姿が。ひとまずクッキーとポットが乗せられたお盆を机の上に乗せると、収納棚にあるティーカップを『二つ』取り出す。予備でいくつかあるティーカップだが、二つ以上同時に使うのは初めてだ。
ポットに入った紅茶を二つのカップに注ぐ。輝くようなオレンジ色の液体をカップに注ぐと、室内にダージリンの良い香りが充満する。血液ではないのは、吸血鬼ではないこいしが飲めないであろうからだ。
「…………」
チラリとこいしの方を向いてみる。起きる様子は微塵も見られない。小さな寝息を立てながらスヤスヤと眠っている。
起こすのは悪いからとは思いつつも、せっかくお茶と菓子を用意したのだからなんとか起きないものか。そう思いこいしに近寄り、顔を覗き込む。
「……別に貴女のためじゃないんだからね……」
自身にしか聞こえないぐらいの音量で呟くと、そのことが聞こえていたのかそうでないのかは分からないが、閉じていた瞳が急に開いた。くんくん……、と菓子の甘い匂いを嗅ぎつけたように鼻を動かす。
あまりにも急に目が冷めたため、多少驚いてしまう私。
「……おおっ☆ もしかしてお菓子タイム☆?」
座ったままの体勢から跳躍し、文字通り飛び起きるこいし。そのまま一目散にテーブルの方に向かっていく。
「ねぇねぇっ☆ 食べていい?」
「……うん。せっかくだし……ね」
やったあ! と無邪気に喜んでいるこいし。…………。
「いただきまーす!」
◆ ◆ ◆
そうして始まった私とこいしのティータイム……もといお菓子タイム。いつも通りこいしの話を聞きながら、たまに私からも話をふる。お茶菓子があることを除き、前と変わらない一日を過ごした。
「はぁ〜、美味しかったぁ〜」
「…………そう」
お腹は膨れてはいないが、寝転んで食べすぎた人のようにお腹をポンポンと叩く。お行儀が悪いわよ。
「えへへ〜、今日はお菓子までご馳走してもらっちゃってありがとうね!」
「……ええ」
前と変わらない……だが、確実に出会ったときとは違う感情が芽生えていた。胸の奥のこの暖かい感触。幽閉されてきた495年間の中で一度も芽生えなかったこの感情は……。
一瞬、次の言葉を言うのかどうかためらい、顔を俯かせる。
「…………ねぇ、こいし。もしよかったら……また遊びに…………」
と呟くように言い放ち、先程までこいしのいた場所を見る。
しかし、もう目の前にこいしはいなかった。いついなくなったのか……。俯いた時にでもいなくなったのだろうか? まるで初めてここに現れたときのように、ふわっと、まるで蜃気楼のような掴みどころのなさを持って。
気のせいか、その時「ありがとうね」と聞こえた気がするが声の出どころは掴めない。
「…………なんなのよ……もう」
そんなこいしの自由さと、勇気を出して言い放ったセリフが彼女に届かなかったというもどかしさに、どこか歯がゆさを覚える。カップは後で片付けるからいいか……と、空になったポットを片付けるのを後回しにしながらズカズカとベッドの方にまで戻り、横になった。
そこには、まだかすかに残る温もり。
「…………むぅ」
彼女は気づかない。最初彼女の心にあった退屈は、霧が晴れるかのようにきれいになくなっていたことに。そして、心の内では次の古明地こいしの来訪を待ち望んでいることに……。
今回のこいフラの百合小説はどうでしたでしょうか? 原作では出会わない二人(獣王園現在)のもしかしたらあったかもしれない物語。解釈違い等もあるとは思いますが、温かい目で今後ともお付き合いいただけたら嬉しいです。