99・自重しろ神様って話
セルバの疑似神核には事前にマレッサとパルカの神力がある程度込められていた。
疑似神核を取り込み、マレッサが言ったような『奇跡』的に何の問題もなく適合したせいなのかは分からないが、消えていたはずのセルバの両腕と下半身は新しい物に変わっていた。
それは、セルバがまだ神域、神の領域に居た頃のものであり、まさに神としての体、神体であると、マレッサは言っていた。
じゃあ、今までのセルバの体は何だったんだろうとも思ったが、地上と神域では色々と違いがあるんだろうなと、小難しい事を考えるのはやめる事にした。
今はそんな事を考えているような状況じゃないからだ。
『キャッホォオオ!! なにこれ、すんごいネ!! ハンパなさすぎネ!!』
「クゥン、なんだか、プナナ変でしゅ……クゥン、頭の中がフワフワして、よくわかんないでしゅ……」
『我慢しなくていいネ、プナナ、そのまま身も心も神力の流れに身を任せ――その顔たまんないネ!!』
『セルバ、お前もうちょっと自重するもん!! お前の子たちが見てる前もんよ!! マジ、自重しろもん!!』
『やっぱ、雑に勇者特権いじるもんじゃないわね。プナナを通してのスキル発動で変なとこに負荷でもかかってるのかしら?』
「プナナちゃん、頑張ってぇん!! もっとセルバちゃんへの愛を叫ぶのよぉん!!」
今、俺はパンツ一丁でプナナに抱き着いている。
なんでこうなった。
俺のよく分からないスキル、褒めたら何故かとんでもない信仰を神に与える能力をパルカが何故か改造し、プナナを通して発動できるようにしたのだが、その為には俺がプナナに触れている必要があるらしく、最初は軽く手で触れていたのだが、出力が弱いと文句を言われた。
出力は弱くともプナナのセルバへの言葉は信仰になってセルバに神力を届けてはいたのだが、このままでは、奇跡で消費される神力の方が大きいからと、じかに触れる面積を増やしていったのだが、信仰の出力が上がる度にプナナの様子がおかしくなっていった。
どうやら、俺のスキルの影響でプナナは魔力酔いを起こしてしまっているらしい。
パルカが適当に俺のスキルを弄ったのが原因だろうとは言われたが、さっきからプナナが何とも言えない鳴き声をあげている。
これ、はたから見たら、俺はとんでもない変態不審者なのではなかろうか。
『見た目はホントに事案ものもん。セルバの為じゃなかったら、変態そのものもんよ』
「うるさい!! 俺だってちょっとそう思ってるんだから、俺の心を抉るような事を言うな!!」
なんだか、周りのセルバブラッソの住民が俺を見れヒソヒソ言ってる気がする。
泣くぞ、赤ちゃんもビックリのレベルで泣き散らかすぞこのやろう。
だが、我慢だ、セルバの為にも、プナナの為にも、全力で我慢するんだ俺ッ!!
「プナナ、きついかもしれないが、もっとセルバ様を褒めるんだ!! それがセルバ様を生かす事になるんだ!! こんな状態でちょっとアレだが、きつくても頑張れ!!」
俺の声にプナナはとろんとした目で、だらしなく開いた口から涎を垂らしながら、なんとか頷いてくれた。
これ、ホントに大丈夫か?
ヤバくない?
「プ、プナナ、頑張るでしゅ、セルバしゃま、とっても奇麗でしゅ、クゥン……いい、匂いもするでしゅ」
『キャッホォオオオオオオオ!! すっごくすっごいネ、ギュンギュンにキてるネ!! あっひゃー、たまんネーー!!』
セルバも大丈夫か?
疑似神核にヤバイもの入ってない?
くそう、自分の恰好と絵的なヤバさのせいで羞恥心がうなぎ登りだ。
このままじゃあ俺の心が死にそうだ。
「マ、マレッサ!! 今どんな状態だ!! セルバの奇跡は今どれだけ進んでるんだ!? あと、どれくらいで奇跡は終わるんだ!!」
『あと半分って所もん。でも、今のセルバへの信仰の供給がすごいから、このままなら奇跡を成し遂げるまで、問題ないはずもん』
「マレッサ、具体的にはあとどのくらいだ、頼む、俺の心が折れる!! がんばるけど、具体的な時間を知りたい!!」
『あー、そうもんね。今の奇跡の進行具合から見て、セルバブラッソの国土の大半に緑が戻って来てるもん。あとは国民の強化だけもんから、だいたい三十分くらいもんかね』
「三十分!? 三十分もあるのか!? くそぅ、分かったよ!! すんごい恥ずかしいけど、俺、頑張る!!」
『えー、ワタシはもっと長くてもいいネ。あともう二十四時間くらい追加していいネ?』
「俺が死ぬ!! 肉体じゃなくて心が耐えられない!! お願いだから勘弁して!!』
俺の必死の懇願にセルバはものすごく残念そうな顔をして、プナナの手を握った。
指を絡ませるな、指を。
プナナは子供だぞ、おい。
『自重しろって言ってるもんセルバ!! ほら、エルフとドワーフの長の二人がすんごい複雑そうな顔で見てるもんよ!! どちらがセルバの最愛の子か、とかくっそくだらねぇ理由で何百年も戦争してきたのに、こんな展開見せられたら心が死んじゃうもんよ!! これあれもん、愛する妻が見知らぬ男と――、いやこのたとえはあまりに残酷もん。ちょっと変えるもん。これあれもん、自分の飼ってた可愛いペットが見知らぬ他人に自分以上にすんごい懐いてるのを見たような感じもん!!』
『言っとくけど、今の私様やアンタは地上種の奴らにも見えてるし、声も聞こえてるからね? 人間の信仰で神力が溢れて、こんななりだけど神体顕現より低い程度の出力にはなってるんだから、アンタこそ本当の事言うのやめてあげなさいよ。可哀想でしょ。ちょっと前まで、わしの方が兄だとか、私の方が兄だとか、なんかどっちがセルバの子の中で一番の兄かどうかで言い合いしてたのが、滑稽過ぎて憐れじゃない』
二人ともやめてあげて。
レフレクシーボさんとアウストゥリさんの二人がこの世の終わりみたいな、すっごい顔して項垂れてるから。
余りに可哀想すぎて心が痛くなってくる。
そんなこんなで時間が過ぎていき、セルバの神力が高まっていくにつれて、セルバの木で出来ていた体の部分がだんだんと剥がれていき、その下から人の体に似たセルバの神体が姿を現してきた。
上半身が木から神体になった際、再度俺の目をマレッサとパルカが潰しに来たのは言うまでもない。