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98・なんで俺がこんな目にって話

俺たちは急いでセルバの元に向かった。

残り時間は四十分くらいだろうか、もっと少ないかもしれない。

セルバが奇跡を起動した広場に辿りつくと、セルバを中心にセルバの大樹に居た人たちが大勢詰めかけて、セルバに手を合わせて祈りを捧げていた。

中心にいるセルバは木の枝で編まれた椅子に座っており、下半身がほぼ消えており、両腕ももう見えなくなっている。

眼を閉じていて、眠っている様にも見えた。

残り時間は恐らく、あまり残っていない。


「デイジー叔父さん、急ごう!!」


「えぇ、ちょっと危ない状態みたいねぇん」


祈っている人たちの隙間を縫って、俺たちはセルバの元に駆け寄った。

セルバの神官がマレッサに何かを話しているのが見えた。


『デイジー、セルバからわっち達の行動はセルバ自身の願いからの物、邪魔する事も恨む事もしないようにってみんなに言ってあるみたいもん』


「それは助かるわぁん。万が一、セルバちゃんの子供たちに邪魔されたらどうしようってちょっとだけ思ってたのよねぇん。プナナちゃんがセルバちゃんの神和って事も伝わってるみたいねぇん。複雑な感情が渦巻いてるわぁん」


セルバの元に辿りついたプナナが消えかけているセルバを見て、泣きそうな顔になる。


「セルバ様、消えちゃいやでしゅ!! プナナはまだセルバ様に何の恩返しも出来てないでしゅ!!」


プナナの声にセルバが反応し、眼を開ける。


『プナナ、ワタシの正体に気づいたみたいネ。騙してて悪かったネ。あぁ、頭を撫でてあげたかったんだけど、撫でる腕がもうないネ、ごめんネ、プナナ』


力なくそう言ったセルバにプナナは激しく首を横に振る。


「そんな事ないでしゅ!! セルバ様が謝る必要ないでしゅ!!」


泣き喚いてセルバの体にすがるプナナの肩をデイジー叔父さんが優しく叩く。


「プナナちゃん、大丈夫。これからもっとお話できるようになるわぁん。だから、ね」


バチンとウィンクをしたデイジー叔父さんを見て、プナナは涙をぬぐって懐からセルバの疑似神核を取り出した。


「セルバ様、見てほしいでしゅ!! デイジーさんの協力もあって、セルバ様を助けるための神核が完成したんでしゅ!! あとはこれをセルバ様に接続して、プナナがセルバ様を思い切り信仰すればなんとかなるはずでしゅ!!」


セルバはプナナの差し出す疑似神核を前にして、俺の方を、正しくはマレッサとパルカの方を見た。


『出来は普通の神核より劣るもんけど、元が簡易神核もん。奇跡が成し遂げられるまで持てばいいって感じもん。お前が望むならわっちはもう何も言わないもんよ。ただ、それがお前に適応するかは賭けもん』


『安心なさい、セルバ。私様の神力と、こんな事言ってるマレッサから徴収した神力を込めてるし、アンタの神和とデイジーちゃんが作ったのよ、無理やりにでも適応なさい。大丈夫、絶対なんとかなるわ。人間の良くわかんないスキルをアンタの神和にも適用できるようにしてるから、すっごいのが来るわよ。アンタの神和を信じなさい』


セルバはマレッサとパルカの言葉を受け、少し微笑んでコクリと頷いた。


『プナナ、それをワタシの口の中に入れるネ』


力無く開いたセルバの口の中へ、プナナは恐る恐る疑似神核を入れる。

ゴクリと飲み込むセルバを見て、プナナは両膝をついてギュッと手を組んでセルバの無事を祈った。

刹那、セルバの体から凄まじい勢いで白い蒸気が噴出しだした。


『これは拒絶反応もんか!? 疑似神核なんて物を取り込んだ神はいまだかつていないもん、この反応が何の反応か検討が付かないもん!!』


『私様とマレッサの神力がセルバから排出されてる? いや、違うわ、これは神体顕現!? 人間から供給された神力だったから変な感じになっちゃったの!?』


マレッサとパルカが何かを喋っているが、セルバの体から噴出される蒸気の勢いが凄くてよく聞き取れない。

何が起きているのか俺にはさっぱりだが、死の視線は感じないし、悪い気配は感じない。

たぶん、悪い事ではないはず……。

蒸気が辺りを白く染め上げる。

その蒸気の中から、陽気な声が響いてきた。


『しまったネ。疑似神核を取り込むには口移しが必要とか言えばよかったネ。失敗ネ』


『お前、さっきまで消滅しかかってたもんのに……アホもんか?』


『はっ!?』


『パルカ、その手があったか、みたいな顔するなもん』


突風が吹き、蒸気が吹き飛ばれていく。

蒸気が晴れた後、その場には立ち上がっているセルバが居た。

だが、その様子は少し変わっている。


『これは驚いたネ。二人からの神力に何か混ざてたネ? まさか、地上に降りる前の神体を一部でも顕現できるとはネ』


セルバの欠けていた部分が全て生身の人間の体に変化していた。

消えていた両腕も、消滅していたはずの下半身も。

そこで俺の視界は真っ黒になった。

マレッサが右目を、パルカが左目を攻撃したせいだ。


「ぎゃああああああああ、目がぁあああああああ!!」


『セルバ、とっとと何かで下を隠せもん!! 羞恥心とかも神域に忘れたもんか!?』


『人間見るんじゃないわよ!! 見るなら私様のを見なさいよ!!』


余りの痛みに両目を抑えてのたうち回る俺。

俺が何をしたって言うんだ……。


『おっと、上半身はまだ木とは言え下半身が神のそれのままだと、ちょっとみんなの目には毒ネ。……プナナ、見るネ?』


『セルバァッ、お前は状況考えろもん!!』


プナナに自らの神体を見せつけようとするセルバに怒号を飛ばすマレッサ。


「セルバちゃん、これでも履いてなさぁい。あたくしのホットパンツで悪いけれど、無いよりはマシなはずよぉん。ちゃんとサイズ直しは今したから、問題ないはずだわぁん」


『ありがとうネ、デイジー。プナナの目を塞いでくれて助かったネ。プナナには刺激が強すぎるからネー』


『見せようとした奴が何言ってるもんか……』


ケラケラと笑う、セルバ。

どうやらだいぶ回復したように感じる。

その時、セルバが盛大にお腹を鳴らした。

ググゥウウウウウウ、余りの音の大きさに大気が振動している。

なんとも凄まじい腹の虫も居たもんだ。


『うんうん、一部とは言え神体顕現したもんだから、お腹がすいちゃったネ。さぁ、みんなワタシにありったけの信仰をちょうだいネ!!』

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